転生夫婦の新婚事情 ~前世の幼なじみが、今世で旦那さまになりました~
「あの……お仕事は、もういいんですか?」
小さくベッドが軋んだ。やってきた春人が隣に腰を下ろしたタイミングで、目を伏せたまま結乃が問いかける。
するとなぜか、ふ、と彼が笑みをこぼす気配がした。不思議に思った結乃は、反射的に顔を上げて視線を合わせてしまう。
「仕事は済んだ。……結乃のその敬語は、いつになったら取れるんだ?」
自分を見つめるやわらかな眼差しに、一際心臓がはねる。
春人の言葉は、からかうでも嘲るでもなく、ただ純粋な質問だとわかる声音だ。羞恥心でキュッと下唇を噛むと、さらに「あと、名前のさん付けも」と追いうちをかけられる。
「それは……そのうち、です」
ボソボソと答えてはみたが、果たしていつになることやら。結乃が彼を『春人さん』と呼んで敬語で接するのは、前世の自分と今の自分を明確に切り離すためだ。
幼い頃からの付き合いだったあの頃と、今は違う。『ユノ』と同じように遠慮のなさすぎる態度を今の彼に無意識に取ってしまえば、引かれてしまうかもしれない。さすがにそれではまずいだろうと、結乃は自らこの口調を選んだのだ。
「そうか。じゃあ、『そのうち』慣れてくれ」
あっさり言い放った春人がそのままじっと結乃の瞳を覗き込んでくるから、硬直した。
「触れても、いいか?」
律儀な低い声が、結乃の耳を心地よくくすぐる。
それを聞いた瞬間、さっきまで自分が考えていた彼への下世話な決めつけが、なんだか馬鹿馬鹿しいものに思えてきた。
(過去を気にしても仕方ない……このひとはきっと、私を大切にしてくれる)
真剣な表情で伺いをたてる彼に可笑しくなってきて、結乃は口もとを緩ませる。
小さくベッドが軋んだ。やってきた春人が隣に腰を下ろしたタイミングで、目を伏せたまま結乃が問いかける。
するとなぜか、ふ、と彼が笑みをこぼす気配がした。不思議に思った結乃は、反射的に顔を上げて視線を合わせてしまう。
「仕事は済んだ。……結乃のその敬語は、いつになったら取れるんだ?」
自分を見つめるやわらかな眼差しに、一際心臓がはねる。
春人の言葉は、からかうでも嘲るでもなく、ただ純粋な質問だとわかる声音だ。羞恥心でキュッと下唇を噛むと、さらに「あと、名前のさん付けも」と追いうちをかけられる。
「それは……そのうち、です」
ボソボソと答えてはみたが、果たしていつになることやら。結乃が彼を『春人さん』と呼んで敬語で接するのは、前世の自分と今の自分を明確に切り離すためだ。
幼い頃からの付き合いだったあの頃と、今は違う。『ユノ』と同じように遠慮のなさすぎる態度を今の彼に無意識に取ってしまえば、引かれてしまうかもしれない。さすがにそれではまずいだろうと、結乃は自らこの口調を選んだのだ。
「そうか。じゃあ、『そのうち』慣れてくれ」
あっさり言い放った春人がそのままじっと結乃の瞳を覗き込んでくるから、硬直した。
「触れても、いいか?」
律儀な低い声が、結乃の耳を心地よくくすぐる。
それを聞いた瞬間、さっきまで自分が考えていた彼への下世話な決めつけが、なんだか馬鹿馬鹿しいものに思えてきた。
(過去を気にしても仕方ない……このひとはきっと、私を大切にしてくれる)
真剣な表情で伺いをたてる彼に可笑しくなってきて、結乃は口もとを緩ませる。