転生夫婦の新婚事情 ~前世の幼なじみが、今世で旦那さまになりました~
「……こないだは、そんな許可取らないで抱きしめたじゃないですか」
「そうだったな。悪い」


 春人は本当に悪いと思っているのかわからない声音で言うと、結乃の頬にそっと右手のひらを添えた。

 互いに目を合わせたまま、永遠にも思える数秒が流れる。もう片方の手が彼女の髪を撫でたのを合図に、結乃が一瞬だけ躊躇ったあとまぶたを下ろした。

 気配が近づく。重なった唇は少し冷たくて、その瞬間結乃は思わずピクッと身体を震わせた。


「ん」


 結乃が声を漏らすと唇が束の間離れ、またすぐに押しつけられる。

 やわらかさを楽しむように食んだあと、春人の舌先がぬるりと結乃の唇の合わせ目をなぞった。

 ぞく、と背筋に電流が走って、同時に薄く口を開けてしまう。
 その隙を逃さなかった春人が、歯列を割って舌を差し入れた。


「ふあ……っふ、ぅ」


 キスをしている。前世では幼なじみでしかなかった男と、今は夫婦として。

 その事実がどうしようもなく結乃を恥ずかしくさせて、すがるように春人の胸もとをギュッと握りしめた。


(キスって、こんな感じだったっけ……?)


 知らない。これは、知らないやつだ。
 もう、口内で撫でられていないところはないんじゃないかというくらい、くまなくくすぐられる。遠慮のない熱い舌が上顎をなぞると、反射的にくぐもった声が漏れた。

 怖気付いて引っ込めたままの舌をつつかれ、自然に絡ませ合うように誘導される。ぬるぬるとしたその感触が、いやらしくて気持ちいい。

 春人を真似て控えめにこちらも応えると、ご褒美とばかりに甘く舌を吸われて脳が痺れた。我が物顔で結乃の口内を嬲る巧みな舌のせいで、否応なしに体温が高まる。

 深いキスに蕩けた結乃の口の端から、どちらのものともわからない唾液が伝った。
 それを舐めとって、春人がゆっくりと顔を離す。
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