転生夫婦の新婚事情 ~前世の幼なじみが、今世で旦那さまになりました~
「結乃を、抱きたい」


 乱れた呼吸を整える間もなく直接耳に低い声を吹き込まれ、今度こそ息が止まった。

 相手と目を合わせられないまま、真っ赤な顔でかすかに首を縦に動かす。肯定の意思はきちんと相手にも届いたらしく、春人がホッと息を吐いて結乃のこめかみに口づけた。


「できるだけ……優しくする」


 そのささやきを聞いたとたん結乃の身体から完全に力が抜け、目の前の胸にしなだれかかる。

 春人は片手で結乃の右手を取るともう一方の手で腰を支えながら、ベッドの中央へと誘導する。
 仰向けに横たわる彼女の身体を跨ぐように、春人が覆い被さった。


「あ……」


 自分を見つめる瞳の奥に灯ったあやしい光に魅せられて、目が逸らせない。
 いつもの無表情とは違う。眉間に刻まれたシワと引き結ばれた口もとが欲望を抑え込もうとしているせいだとわかって、結乃の胸に苦しいほどの甘い痛みが去来した。


(──ああ、どうしよう)


 きっと今、猛烈に顔が赤いはずだ。恥ずかしくて、逃げ出したくて、どうにかなりそう。

 先ほどの言葉通り優しく下りてきた唇が、結乃の頬をつたって顎に触れ、首筋をたどっていく。

 ちゅ、ちゅと小さなリップ音をたてて肌を吸われるたび、ぞくぞくした痺れに襲われた。ギュッと固く目を閉じながら下唇を噛みしめ、甘い責め苦に堪える。

 そうしているうち、気づけば春人の器用な指先が結乃のパジャマのボタンを上から順に外していた。
 なんという早わざだ。やっぱりこの男は、かなり女性慣れしているに違いない。

 結乃の余所事もそこまでで、開いた合わせ目から生あたたかい空気が素肌を撫でると、ふるりと全身をわななかせた。
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