転生夫婦の新婚事情 ~前世の幼なじみが、今世で旦那さまになりました~
4:清く正しく、愛を育みましょう


 ユーアソシエイト社長室に設置している上等なソファーは、来客対応の他CEOと副社長の休憩スペースとしても利用されている。

 現在、そのソファーに向かい合わせで座る仁と春人のふたりは、朝から微妙な空気を背負っていた。


「……は? ハルおまえ、初夜完遂してねぇの?」


 唖然とつぶやいた仁に、春人は無言のままコクリとうなずく。

 春人の顔は、一見いつもと変わらない無表情に思えた。けれど通常よりも眉間にシワが寄っているし、さらによくよく見れば目もとにはうっすら隈が浮かんでいてどこか疲れた様子である。

 おおよそ、新婚3日目の男が見せる顔ではない。組んでいた脚を解いた仁が、軽く身を乗り出しながらまた口を開いた。


「えっと、2日前の土曜日に入籍したんだよな? で、ふた晩とも拒否られたんか?」
「最初の夜に『今日はできない』と言われて、翌朝改めて『心の準備ができるまでは待って欲しい』と言われた」
「おお……? けど、一緒のベッドで眠るのは許してくれんだ……?」
「ああ」
「……地獄かよ」
「同感だ」


 温度のない声音で返す春人は深く背もたれに沈み、ビルの1階に入っているカフェで仁が買ってきたコーヒーをすすっている。

 ローテーブルを挟んだ向かい側で同じようにコーヒーを手にしながら、仁は目の前にいる男の不可思議な新婚生活に心から同情した。
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