転生夫婦の新婚事情 ~前世の幼なじみが、今世で旦那さまになりました~
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『あー! やっぱり、ここにいた!』
その明るい声が耳に届いたのは、少年が心の中で数えていた素振りの数がちょうど200に到達したときだった。
鍛錬用の木刀を持つ手を下ろしながら背後を振り向けば、そこには予想通りの人物が建物の陰からひょっこりと顔を覗かせていて息をつく。
『……ユノか』
『「ユノか」、じゃなーい! ダメでしょハルト、ケガしてるのに無茶したら!』
ユノと呼ばれた少女は少し癖のある赤茶色のロングヘアと白いワンピースの裾をなびかせ、見るからにご立腹な様子で少年──本名はハルトヴィンという、自分より幾分年上な彼のそばへとやって来た。
ユノの言葉に、ハルトは端整な無表情を僅かに歪める。
『……ケガなんかしてな』
『ウソばっかり! さっきトーマスと手合わせしたときに左手首を痛めたこと、私知ってるんだから』
ハルトの返答を遮ったユノは、彼の木刀を持つ方とは逆の手を無遠慮に掴んで持ち上げた。
12歳の自分より4つも下の彼女のことを、ハルトは“無愛想なこちらの反応なんてお構いなしで何かと絡んでくるおかしなヤツ”だと認識している。
ユノの澄んだ緑色をした大きな瞳に見つめられると、ハルトはなぜかいつも、落ちつかない気持ちになるのだ。
だけど彼は自分でも不可解なそんな胸の内や、不意打ちで触れられた手が鈍く痛んだことすら、決して顔には出さない。
ただユノにされるがまま左手を掴まれながら、諦めたようにため息を吐いた。