転生夫婦の新婚事情 ~前世の幼なじみが、今世で旦那さまになりました~
 彼女が顔を上げたタイミングで、五月女がどこかイタズラっぽい笑みを春人に向けた。


「果報者だな、おまえは。よくできたかわいらしい奥さんに逃げられないよう、しっかりやるんだぞ」
「……重々承知しています」


 結乃は五月女の言葉に照れつつも、ばつの悪そうな顔をする春人には首をかしげる。

 そうしてしばらく和やかに談笑したのち、不意に五月女が立ち上がった。


「さて。せっかく来たんだ、久しぶりに手合わせしようか」
「えっ」


 春人から、あからさまに難色を示す声が漏れる。

 しかし五月女は、気にもとめずニッコリと微笑んだ。


「防具と竹刀なら一式貸すよ。さあさあ、ストレッチして」
「あの、俺たち今デート中で……」
「久々だろうし、かかり稽古1分を5本にしておこう。きみの余力があれば地稽古もやりたいなあ」


 春人の口から出た『デート』という単語にひそかにドキリとしてしまう結乃だが、不服を申し立てられた当人はあくまで朗らかに返す。

 すると春人が、諦めたように深いため息を吐いた。


「はあ……悪い、結乃」


 そうして結乃にだけ聞こえる音量でつぶやいたかと思うと、彼女が謝罪の意味を理解するより前に立ち上がった。


「先生、防具ならあります。車に行ってきますので、少しお待ちください」


 すでに歩き出していた師の背中に向け、声を張り上げる。

 教え子の言葉に振り返った五月女は、満面の笑みで「さすがだね」とうなずいたのだった。
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