転生夫婦の新婚事情 ~前世の幼なじみが、今世で旦那さまになりました~
『わかっているとは思うが、本気でかかっておいで』
『当然です』


 ゆったりと微笑む五月女に、春人は鋭い眼差しで答える。

 そうして元立ちを五月女、かかり手を春人として始めたはずの稽古は、途中からどちらがかかり手なのかわからない状態に変わっていた。


『ほら、空いてる』
『まだまだ』
『もう限界か?』


 面の内側の顔を歪め一心不乱に相手の隙を突こうとするも、そんな余裕綽々の激励を浴びせられながらことごとくいなされ、打ち込まれる。

 年齢でいえば圧倒的に優位な春人だが、日々鍛錬を怠らない五月女と仕事に追われなかなか剣道に向き合えない今の自分では、その差は火を見るより明らかだった。

 結果、五月女が提示した1分×5本のかかり稽古を終える頃には、春人は肉体的にも精神的にもボロボロに追い込まれ、苦渋に顔をしかめながら肩で息をする羽目になっていたのである。

 そして、五月女のしごきはここで終わらなかった。

 結局その後、試合と同じような形式で行う地稽古にも、春人は付き合わされ……大量の汗をかいた春人がシャワーを借り、これまた念を入れて用意していた替えの肌着を身につけ元の私服に着替え終えたとき、時刻はすでに13時を回っていた。

 その間結乃はすぐそばで、ふたりの稽古の様子を観戦していたのだが──いくらなんでもデート中、しかも誕生日に1時間近くも放ったらかしにするなんて。我ながらあり得ないと、春人は心の底から自分の意志の弱さを呪った。
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