転生夫婦の新婚事情 ~前世の幼なじみが、今世で旦那さまになりました~
(俺はそのうち、不整脈で倒れるかもしれない……)


 大真面目にそんなことを考える。んん、と咳払いのフリをして、緩む口もとを隠すようにこぶしをあてた。


「……そうか」


 こんなとき、気の利いたことの言えない自分の口下手が憎い。

 もしも仁がこの状況を見ていたら「そういうとこだぞ!!」と盛大にブーイングを飛ばしていたに違いないだろう。


「はい……えっと、だから、春人さんはこれ以上気にしなくても大丈夫です」


 短い春人の返事にも、そう言って結乃ははにかんでくれる。

 一瞬だけ言葉を詰まらせ、けれどもすぐに春人は「ありがとう」と吐息とともにこぼした。


「お待たせしました。ハムエッグトーストと、たまごサンドです」


 会話がちょうど一段落したタイミングで、注文した食事が運ばれてくる。

 ふたりの座るテーブル席にトレーを持ってやって来た60代ほどのふくよかな女性は、この店のマスターである男性の奥方だ。
 夫人はテーブルに食事を並べると、春人に意味ありげな目配せをしてそそくさと去っていく。

 この喫茶店との出会いから決して短くはない年数が経っているが、女性を連れてきたのは今回が初めてだ。夫人が何やら色めき立っているのは、そのせいだろう。

 見るとカウンターの向こうで他の客のコーヒーを淹れているマスターも、チラチラとこちらへ必要以上に視線を寄越していることに気づいた。


(……何もあんなに見なくても)


 しかも、あの生あたたかい眼差し。学生服を着ていた頃からの顔馴染みにこんな場面を見られるのは、今さらながら妙に気恥ずかしい。

 けれども同時に、長く見守ってくれていた彼らにようやく自分が成長した姿を見せられたのかもしれないと、誇らしい気分でもある。
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