転生夫婦の新婚事情 ~前世の幼なじみが、今世で旦那さまになりました~
 それでもユノは、どうしても、ハルトへの不当な仕打ちが許せなくて悔しかった。

 ハルトが強いのは、道場での稽古のあとにもこうしてひとり鍛錬し、努力しているからだ。それを“気に入らない”という理由だけで知ろうともしない人たちなんて、ハルトが自主的にこなす素振りと同じ数だけビンタしてやりたい。

 だから、たった今ハルトから落とされたつぶやきも、ユノにとっては理解しがたいもので。
 ガバリと勢いよく顔を上げた彼女は、その先でハルトが珍しく驚いた表情をしているのにも構わず息を吸った。


『私が誰と仲良くするかは、私が決めるの! ハルトは黙ってて!』


 フン!と鼻息荒く言い放つと、ユノは再び視線を落として手当てに集中する。
 そんな彼女の言動に、呆気に取られるハルト。
 けれどふと、堪えきれず小さく噴き出した。


『そうか。それは、失礼したな』
『わかったならいいの。はい、これでできあがり!』


 最後にキュッと包帯の端を結び、手当ては完了したらしい。
 ハルトは自身の左手を持ち上げ、まじまじと見つめる。


『いつものことながら、上手いものだな』
『へへへ』


 素直に褒められてはにかむ表情は、年相応でかわいらしい。
 ほんのり頬を染めたその顔を見て、ハルトの胸の奥に何かこそばゆいあたたかさが広がった。が、自分の情緒に鈍感な彼はそれを気のせいだと思い、話を続ける。
< 9 / 195 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop