転生夫婦の新婚事情 ~前世の幼なじみが、今世で旦那さまになりました~
(なんだ、さっきのかわいすぎる発言は……)


 まるで猫のように自分の胸に擦り寄ってきた結乃の姿を思い出し、体温が上がる。なんとか熱を逃がそうと、彼女には気づかれないようひそかに深く息を吐き出した。

 いい匂いというのなら、結乃の方がまさにそれだ。香水などは何もつけていないのに、彼女からはいつも清らかな甘い香りがする。

 夜──同じベッドで、眠るときだって。その匂いや身じろぎひとつに、春人の理性はぐらぐらと揺さぶられてばかりだ。

 結乃は、自分が隣に眠ることに危機感を持っていないのだろうか。
 彼女の心の準備ができるまでは待つと、うなずいた。あの約束をこちらが破るとは、考えないのだろうか。


(まあ、まんまとその信頼に応えたいと思ってしまってるわけだが)


 結乃を前にした春人は煩悩だらけで、正直聞かせられないようなものばかりだ。

 だけどそれを、決して彼女には悟らせないように努力している。

 結乃が『待て』をしたのは夫婦の営みについてのみで、今のように手を繋ぐことや、キスまでは言及していなかった。

 けれども春人は、それをキッカケに歯止めがきかなくなることをおそれ、結乃に必要以上に触れないようにしている。

 ……触れないように、していたはずなのに。


(参ったな……どんどん、欲が抑えきれなくなってる)


 あんな婚姻届(紙切れ)だけじゃ足りない。早く、心も身体も自分のものにしたい。

 こんな身勝手な劣情を──いつか彼女も、自分に感じてくれればいいのに。


「あ! 春人さん、そこのお店も見ていいですか?」
「ああ」


 絡めた彼女の薬指に感じる硬い感触に少しだけ溜飲を下げるも、想いは募り続ける。

 隣を歩く愛しい存在へ送る春人の眼差しには、熱っぽい情欲が揺らめいていた。
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