転生夫婦の新婚事情 ~前世の幼なじみが、今世で旦那さまになりました~
5:蕩ける夜と幸福な朝
「どうした。疲れたか?」
不意に聞こえた声に、ハッとする。
慌てて顔を自分の左隣へと向けてみれば、そこに立つ春人はその長身を軽く屈めて結乃の顔を覗き込んでいた。
1日いっぱいをかけた外出を終えて自宅マンションへと戻ってきたふたりは、現在地下駐車場でエレベーターを待っているところだ。
車中では普通だったのに、急に口数が減ってぼんやり立ち尽くしていた結乃を心配したらしい。自分を見つめる無表情の中に気遣うような眼差しを見つけた結乃は、反射的にへらりと笑ってみせる。
「あ、うん、大丈夫」
何だか答えになっていないような調子で返せば、春人は「そうか」ととりあえずは納得して再び前を向いた。
その端整な横顔を見つめて、結乃はこっそりため息を吐く。
(言う。今夜、言うんだ……)
今日1日春人とともにいて、結乃の覚悟は決まった。もう、彼に触れられることを拒まない。
けれど問題は、どうやって春人にそれを伝えるかだ。
ストレートに言うのが手っ取り早いのだろうが、どんな言葉を使えばいいのかもわからないし何より恥ずかしい。
そもそも春人は、結乃に触れたいと思ってくれているのだろうか。
最初の晩の彼は、積極的にその行為を進めようとはしていた。しかしあれ以来、春人がそういった欲望のようなものを匂わせることは、まったくと言っていいほどない。
(もし、『別にしなくていいよ』とか、断られたら……?)
その考えに行きついて、勝手に傷つく。
自分はもう、相手の拒絶にこんなに怯えるほど、春人のことを特別に想っている。……触れて欲しいと、触れたいと、思っている。
自覚したら、なおさら早く伝えなければと焦燥感が胸を焦がした。
気持ちが育つたび、きっとますます言い出しにくくなる。なら、今日、言わなくちゃ。