夜には約束のキスをして
「お嬢様は先ほど朝食を終えられておりましたので、もうすぐ出ていらっしゃると思いますよ」

 その言葉に(たが)わず、いくぶんもしないうちに門が内側から開き、深青が姿を現した。

「おはよう、和真」
「おはよう」

 朝から寝ぼけた様子もなく凛と開かれた瞳が彼女の調子の良さをうかがわせる。その瞳が空へ向けられた。

「今朝は雲行きが怪しいな。傘は持ってきたか? 夕方を過ぎると降るらしい」

 おそらく玄関を出るときに使用人に持たされたのだろう傘を深青は持ちあげて見せる。

「ああ、持ってきたよ。天気予報見たけど、台風が近づいているからな。明日までかなり降るって」
「……ふむ、確かに。そういう気配はある。今日はあまり夜遅くならないのが賢明そうだな」

 顎に指を載せた深青の呟きに、和真はふんふんと頷く。
 異能を第六感とも言うべきほど自然に行使できる深青は、勘が異常に鋭い。彼女がそういうのなら、今晩は猛烈に降るのであろう。天気などいったいどのようにして読むのか、そういった方面に特性のない術者である和真には見当もつかない。

「ところで文也は? 一緒じゃないのか?」
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