夜には約束のキスをして
香山家に住み込みの使用人の息子である文也は和真たちより一つ歳下であり、同じ中学に通う。普段ならば深青にくっついて一緒に登校するのだが、今朝は姿が見えない。
「ああ、文也なら今朝は、立て付けの悪くなってる雨戸の修理に駆り出されてる。うちは男手が少ないから、こういうときは文也が手伝わされるんだ」
「雨が降り出す前に、か。じゃあ、先行くか」
使用人の女性にいってきますと声をかけてから、深青と並んで坂を下っていく。
歩みを進める間は、特に話すこともなく無言となる。和真も深青もどちらかと言えば言葉少なな性質のため、とりたてて伝えるべきこともなければ積極的に口を開かない。けれども、どうしてか今朝はやけにその沈黙が気にかかる。その理由を考えてみれば、すぐさまああそうかと思い至った。文也がいないのだ。彼は多弁な性格であるから、気づかぬうちにずいぶんと朝の空気を明るくしてくれていたらしい。調子の良い発言で邪険にされがちな彼も、わかりにくいところで役に立っているものだ。
「ああ、文也なら今朝は、立て付けの悪くなってる雨戸の修理に駆り出されてる。うちは男手が少ないから、こういうときは文也が手伝わされるんだ」
「雨が降り出す前に、か。じゃあ、先行くか」
使用人の女性にいってきますと声をかけてから、深青と並んで坂を下っていく。
歩みを進める間は、特に話すこともなく無言となる。和真も深青もどちらかと言えば言葉少なな性質のため、とりたてて伝えるべきこともなければ積極的に口を開かない。けれども、どうしてか今朝はやけにその沈黙が気にかかる。その理由を考えてみれば、すぐさまああそうかと思い至った。文也がいないのだ。彼は多弁な性格であるから、気づかぬうちにずいぶんと朝の空気を明るくしてくれていたらしい。調子の良い発言で邪険にされがちな彼も、わかりにくいところで役に立っているものだ。