夜には約束のキスをして
とすれば、彼のいない今朝は和真からなにか話を振るべきなのだろうか。隣に並ぶ深青はこの沈黙をどのように感じているのだろうか。横目でちらりと様子をうかがえば、彼女は自身の髪をつまみ上げてなにやら唇をとがらせている。湿気を含んだ髪がどうにも気になるらしい。会話の有無になど頓着することもなく、彼女が二人の時間を自然体で過ごせていることに和真はひどく安心した。それと同時に、唇を尖らせるというあまり見られない深青の表情に、和真の胸は高なる。
和真はここ二、三年で深青を可愛らしいと感じることが増えた。昔から容姿は綺麗に整っていて、幼いころには強烈な愛らしさのあった幼馴染だが、最近和真の胸を騒がせているのは彼女のちょっとした仕草だ。旧家の跡取り娘として叩き込まれている洗練された美しい所作は言うに及ばず。それでいて、時折見せる年相応の無邪気な振る舞いは、長い付き合いの中で深青の大人びた部分をよく理解している和真だからこそ胸をつかまれる。おそらく自分は彼女に対して異性としての好意を抱いているのだろう、というのは早々に自覚できていた。
「そういえば」
つまんだ髪を手放した深青がふとこちらに顔を向ける。
「今日は放課後に生徒会の仕事があるから少し遅くなりそうなんだ」
「そうなのか。雨、強くなるんだろ? 大丈夫か?」
「心配をするなら私よりも和真のほうだろう。私が帰宅してからうちに来てもらうのでは和真の帰りが遅くなる」
「んー、まあ。それは仕方ないだろ。深青が倒れるくらいなら、俺が大雨の中帰宅するほうがマシ」
「いや、それは……」
めずらしく言葉に詰まってはっきりものを言わない深青に首を傾げていると、彼女は気を取り直したように口を開く。
和真はここ二、三年で深青を可愛らしいと感じることが増えた。昔から容姿は綺麗に整っていて、幼いころには強烈な愛らしさのあった幼馴染だが、最近和真の胸を騒がせているのは彼女のちょっとした仕草だ。旧家の跡取り娘として叩き込まれている洗練された美しい所作は言うに及ばず。それでいて、時折見せる年相応の無邪気な振る舞いは、長い付き合いの中で深青の大人びた部分をよく理解している和真だからこそ胸をつかまれる。おそらく自分は彼女に対して異性としての好意を抱いているのだろう、というのは早々に自覚できていた。
「そういえば」
つまんだ髪を手放した深青がふとこちらに顔を向ける。
「今日は放課後に生徒会の仕事があるから少し遅くなりそうなんだ」
「そうなのか。雨、強くなるんだろ? 大丈夫か?」
「心配をするなら私よりも和真のほうだろう。私が帰宅してからうちに来てもらうのでは和真の帰りが遅くなる」
「んー、まあ。それは仕方ないだろ。深青が倒れるくらいなら、俺が大雨の中帰宅するほうがマシ」
「いや、それは……」
めずらしく言葉に詰まってはっきりものを言わない深青に首を傾げていると、彼女は気を取り直したように口を開く。