夜には約束のキスをして
「わざわざ無理をすることもないんじゃないか? 和真は生真面目に毎晩来てくれるが、あれ以来私が倒れたことはないし、一日くらい欠かしても問題ないかもしれない」

 自分を案じての提案だと分かるのだが、残念ながらそれには賛成できそうもない。

「大丈夫かもしれないけど、大丈夫じゃないかもしれない。深青の身体の問題だから、不確実なものを試すのは気が進まない」
「和真……」
「ちゃんと行くから。大人しく待ってろ」

 言い聞かせるようにじっと瞳を見つめると、困ったように視線をそらされた。深青がわかったと言わないのは納得していない証拠だ。それでも、こればっかりは譲るつもりがなかった。
 熱に浮かされて苦しむ深青の姿は今でもしかと覚えている。原因不明と聞いて、このまま治らないのではないかと不安にかられたことも。深青を再びあのような目に遭わせずに済むのなら、和真はどんな苦労もいとうつもりはなかった。
 そして、それとは別に小さな下心もないわけではない。色っぽい意味合いは皆無であっても、好意を抱く異性に堂々と触れられる機会というのは、それだけで思春期の男子には甘すぎる蜜なのである。とりわけ深青は、潔癖に育てられたがゆえに、恋愛などと浮ついたことには全く関心がない。想いを伝えれば玉砕が確定している相手だからこそ、大義名分を持って触れられる機会を逃したくはなかった。
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