夜には約束のキスをして
 微妙な緊張をはらんだ空気のまま沈黙が続き、いつの間にか道は下りの勾配を緩やかに変えて平坦なものとなっていた。こうなると学校まではいくばくもない。相変わらず真横に並ぶ深青の口から小さなため息が聞こえた気がした。

「…………もし来るんだったら、十分気をつけてくれ」

 仮定形であるのがささやかな抵抗だろうか。それでも、深青なりの精一杯の譲歩を勝ちとって和真は思わず満面の笑みを浮かべた。

「ああ。さんきゅ」

 小さな頭を撫でようとした手は、ぷいと彼女がそっぽを向いてしまったため、大人しく下ろしておくことにした。
 ほどなくして学校に到着する。二人はクラスが違うため、上履きに替えて三年生の教室が並ぶ階に来ればそこでお別れだ。

「深青、生徒会が終わったら連絡しろよ」

 それぞれの教室に入る前に念を押すと、深青は眉を寄せつつもしぶしぶうなずいた。

「連絡せずにいて遅くに押しかけられてはたまらないからな。終わったらすぐに連絡する。安心しろ」

 つんと顎をあげて隣の教室に消えていく深青の横顔に思わず頬がゆるんだ。
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