桜の下に立つ人
「教室は……からかわれたり……影でこそこそ言われたり……する、から。あの雰囲気、苦手……」

 美空はクラスの中で異質な扱いを受けている。いじめられているわけではないが、どうも周りから浮いているようなのである。
 自分でも不可解な状況をわかってもらえるか不安で、美空がじっと悠祐の顔を見ていると、意外にも悠祐は納得したように頷いた。

「ああ、あんた、社交性ないくせに目立つもんな」
「目立つ……?」
「そりゃあ、その顔だし……」

 悠祐はふいっとまた美空から視線をそらした。悠祐は、美空と話しているとこうして目を背けることが多いように思う。

「つくりもの、みたい……?」

 美空の顔を評する定型句みたいなものだ。無表情だと余計にそう見えるらしく、遠巻きにされることもある。
 クラスでの待遇も、美空の人間味のない雰囲気が原因なのだろうか。
 そこで美空はふと気がつく。美空とこんなふうに普通の会話ができる人間というのは、この学校で悠祐が初めてではないだろうか。
 葉山と竹本も確かに会話はするのだが、彼女らの関心はもっぱら美空の絵にあって、美空自身には特に興味もないのだと美空は思っていた。
 だから、絵のことを抜きにして、美空自身と向き合い会話してくれる悠祐は、ある意味かなり奇特な人物なのかもしれなかった。
 悠祐を見る美空の瞳がにわかに好奇心で輝き始める。微妙に背けられた悠祐の顔が、じわじわ赤くなっていった。
 彼がすぐ赤くなるのはどうしてなのだろう。
 美空が心の中で首をひねっていると、悠祐がわざとらしく咳払いをした。

「整いすぎて作りものっぽいのはあるかもしれないけど。かゎ……いだろ、ふつーに」
「か?」
「なんでもない!」

 赤くなったかと思ったら、突然怒りだして、悠祐はいろいろ難解だ。
< 13 / 45 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop