桜の下に立つ人
***
学校を抜け出した美空は自宅に戻ってきていた。
教室に戻るのが怖いからついサボってしまった……というわけではなく、どうしても確認したいことができてしまい、いてもたってもいられなくなったのだ。
普段はきっちり授業に出ている美空だが、事情ができれば躊躇いなく無断欠席を決めてしまうあたり、やはり感覚が一般よりずれている。
鍵を差し込んで開けた家の玄関はしんと静かだった。美空の両親は共働きなので、昼間の家は無人である。
授業時間中に堂々と帰宅した美空は、廊下の突き当たりの階段を上って、まっすぐ自室に向かう。
美空の部屋は、雑然と画材や絵が並べられているだけの殺風景な六畳一間だ。可愛らしいカーテンがかかっているおかげで、かろうじて女の子の部屋だと分かる。
素っ気ない内装はまるで美空の人柄そのものだ。飾り立てることに興味はなく、ただ大切なものを大事にとっておくだけ。
部屋の右手奥には本棚がある。文章を読むのが苦手な美空が本棚に並べるのは、小さい頃両親が買い与えてくれた児童文学全集や絵本、それに色使いや構図などに興味をもって購入した画集や写真集が大半だ。
しかし、それらに隠れるようにして、一冊だけ小さなアルバムが入っている。美空はそれにすっと手を伸ばした。
ぱらり、と表紙からページをめくっていくと、去年の夏の風景が美空の脳裏に鮮やかに蘇った。
夕立の前の積乱雲、校庭の花壇に咲いた向日葵、波が打ち寄せる岩場に身を潜めたヤドカリ、人混みの中から見上げた花火……全て美空が、あの夏に撮ったものだ。
自分の絵と写真の違いはどこにあるのか、美空の絵に足りないものとはなんなのか、答えを探し歩いた軌跡がこのアルバムには収められている。
そしてその最後に、その写真はあった。
学校を抜け出した美空は自宅に戻ってきていた。
教室に戻るのが怖いからついサボってしまった……というわけではなく、どうしても確認したいことができてしまい、いてもたってもいられなくなったのだ。
普段はきっちり授業に出ている美空だが、事情ができれば躊躇いなく無断欠席を決めてしまうあたり、やはり感覚が一般よりずれている。
鍵を差し込んで開けた家の玄関はしんと静かだった。美空の両親は共働きなので、昼間の家は無人である。
授業時間中に堂々と帰宅した美空は、廊下の突き当たりの階段を上って、まっすぐ自室に向かう。
美空の部屋は、雑然と画材や絵が並べられているだけの殺風景な六畳一間だ。可愛らしいカーテンがかかっているおかげで、かろうじて女の子の部屋だと分かる。
素っ気ない内装はまるで美空の人柄そのものだ。飾り立てることに興味はなく、ただ大切なものを大事にとっておくだけ。
部屋の右手奥には本棚がある。文章を読むのが苦手な美空が本棚に並べるのは、小さい頃両親が買い与えてくれた児童文学全集や絵本、それに色使いや構図などに興味をもって購入した画集や写真集が大半だ。
しかし、それらに隠れるようにして、一冊だけ小さなアルバムが入っている。美空はそれにすっと手を伸ばした。
ぱらり、と表紙からページをめくっていくと、去年の夏の風景が美空の脳裏に鮮やかに蘇った。
夕立の前の積乱雲、校庭の花壇に咲いた向日葵、波が打ち寄せる岩場に身を潜めたヤドカリ、人混みの中から見上げた花火……全て美空が、あの夏に撮ったものだ。
自分の絵と写真の違いはどこにあるのか、美空の絵に足りないものとはなんなのか、答えを探し歩いた軌跡がこのアルバムには収められている。
そしてその最後に、その写真はあった。