桜の下に立つ人
「あんたから、今の俺がどう見えてるのかは、分からない。でも、少なくとも俺は、野球を辞めて、全部失ったって感じた。仲間だって。さっきのやつらだけじゃない。本当の友達だと思ってたやつらとも、ぎこちなくなった。……あっさりなんかじゃ、ねえんだよ」

苦しげに吐き出された最後の一言に、美空は自身の失言を悟った。

「もしかしたら……大人になって振り返ったら、この経験も無駄じゃなかったと思うのかもしれない。けど、今の俺にはなにも残っていない。そう見えるんだ。それが今の俺の、全てなんだよ」

 噛んで含めるようにゆっくりと話す悠祐は、有無を言わせぬ空気があって、対話の余地などないように思われた。
 激昂こそしないけれど、彼は怒っている。“不可侵協定”に違反した美空に対して、なにも知らないくせに踏み込んでくるなと牽制している。
 あんたとは考え方も感じ方も違うんだと美空は線を引かれたのだ。「あんた」という呼び方に初めて突き放された気がした。
 だけど、美空は黙ることができなかった。せめてこれだけはと言うべきことを見つけたのだ。

「少なくとも……先輩の野球で、私の絵は、変わりました」

 悠祐の野球は、美空の絵の中に残っている。そう伝えたかった。
 だけどやっぱり悠祐は自嘲的に笑うだけだった。

「……絵のことなんて分からないし、慰め以上の言葉には聞こえない」
「でも、本当に……」
「もういいから」

 苛立ち混じりに制されて、美空はぎゅっと唇を噛んだ。
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