桜の下に立つ人
 誰かに自分の言葉が伝わらない孤独には、慣れているつもりだった。だけど、こうして悠祐に違うんだと態度で示されると、途方もなく悲しくて、寂しい気持ちになる。
 なにも残っていないなんてこと、あるはずがない。実際、美空の絵にとって悠祐の野球は大きなきっかけになったのだから。
 それを悠祐に証明したい。そのためには、どんな言葉を紡げばいいのだろう。
 伝えたいのに、伝えるための言葉がない。
 美空はいつだってそうだった。自分の気持ちを上手に言葉にできなくて、ようやく吐き出した断片を勝手に解釈されて、誤解される。否定してもやっぱり上手に説明できない。やがて疲弊して、口を閉ざす。わかってもらうことを諦める。
 でも、今だけは諦めたくなかった。諦めたくはないのに、ふさわしい言葉を見つけられないまま無言の時は過ぎ、予鈴のチャイムが無情に響きわたる。

「そろそろ、教室に戻ろう」
「…………はい」

 校舎までの道のりを歩く間、悠祐は一度も美空を振り返らなかった。
 そして放課後の美術室に、悠祐は来なくなった。
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