桜の下に立つ人
エピローグ
清浄な朝の空気の中、まだ通い慣れていない新しい教室に向かう途中で、悠祐はふと足を止めた。
換気のために開かれた窓から、朝のランニングに励む運動部の掛け声が廊下にまで届いていた。
――ファイッオー、ファイッオー、ファイッオー……
おそらく野球部だ。伊達に二年も所属していたわけではないから、聞くだけでわかってしまう。
先月までは、心置きなく野球に打ち込める彼らに強い羨望を抱いていた。部活の様子を見たり聞いたりするだけで妬ましさに苦しくなるのに、未練を断ち切ることもできず、女々しく木陰からひっそりと眺めていた。
しかし今はこんなふうに不意に彼らの声を耳にすることがあっても、心穏やかでいられる。悠祐の中で、野球選手としての喜びも悲しみも全て過去のものになったのだ。
そして野球がもたらした多くの経験が、悠祐の今と未来を支えていく。だから悠祐はもう、新しい明日に向かって歩き出さなければならない。
悠祐が教室にやってきたとき、そこには既に一人だけ先客がいた。
「おはよう。やっぱ竹本は早いな」
教卓の真正面の席で黙々と自習に励んでいた竹本は、悠祐を見てふっと笑った。
換気のために開かれた窓から、朝のランニングに励む運動部の掛け声が廊下にまで届いていた。
――ファイッオー、ファイッオー、ファイッオー……
おそらく野球部だ。伊達に二年も所属していたわけではないから、聞くだけでわかってしまう。
先月までは、心置きなく野球に打ち込める彼らに強い羨望を抱いていた。部活の様子を見たり聞いたりするだけで妬ましさに苦しくなるのに、未練を断ち切ることもできず、女々しく木陰からひっそりと眺めていた。
しかし今はこんなふうに不意に彼らの声を耳にすることがあっても、心穏やかでいられる。悠祐の中で、野球選手としての喜びも悲しみも全て過去のものになったのだ。
そして野球がもたらした多くの経験が、悠祐の今と未来を支えていく。だから悠祐はもう、新しい明日に向かって歩き出さなければならない。
悠祐が教室にやってきたとき、そこには既に一人だけ先客がいた。
「おはよう。やっぱ竹本は早いな」
教卓の真正面の席で黙々と自習に励んでいた竹本は、悠祐を見てふっと笑った。