時が満ちる
庭一面に日差しが広がるとむずむずしてくる。




雲一つない春日和・・・・



ドライブには最高・・・・



縁側の日差しが言う・・・桜の蕾が膨らんだと・・・




視線が騒ぐ幸子は娘の運転で動画撮影に行くことになった。



叢を赤く染めた紅梅がまだ褪せない・



城跡の庭を眺めながら夢中で車の窓から撮影した後・・



日帰り温泉宿に寄って湯に浸った。



鄙びた山里の秘湯にはコロナを逃れた客の車が10台位駐車して居る。



一時間ほど湯に浸り・・日帰り時間が終わるまでには



40分ほど余裕があったので玄関ロビーの椅子に座り



崩れかけた崖を眺め湯上りのぽかぽかの体を楽しんだ。



品格のある愛嬌の良い若女将が近づいて来て言った。



「桜かなう梅の花かな・・撮影出来ましたか」



秘湯の女将とは思えない素敵なスター並みの・・




美人妻の視線の座はどっしりとして居る・・



ぱっちりした眼差しに接待の愛嬌が光る。



見逃しはしない・・・接待のその眼差し・・



「そうですね。揺れる梢を奏でる春の風も‥もう春だよと言って




居ましたね。想ったより雪がなく・・・楽しいドライブでした。」



そんな話をして居ると・・・



「もう帰る時間ですよ。何時までも話して居ると迷惑になるわよ。」



と怒鳴るような声で娘がロビーに入って来た。



幸子はびっくりした。40分の余裕を見ながら・・話して居た。



怒鳴り声に女将もびっくりしたような・・




急に立ち上がった女将が手を振りながら・・・



「良ければまたお出でくださいね。」と言って去って行った。



車に乗った娘は表情が強張って居た・・




「何度言っても話始めると止まらないのね。」



気分よく湯に浸った幸子は一転恐怖に落ちた。




人それぞれ・・・その場・・その場の成り行きがあり



時計を睨みながら話して居た幸子はむかついた。




ここは譲れない生きる姿勢だと思った幸子は




言うべきことは言おう・・・・









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