お前は俺だけのものだ〜私はあなたに相応しくありません
俺は華園誄、お袋が亡くなってからは児童養護施設で育った。

幼いながらお袋の苦労した姿は、脳裏から離れない。
親父のことははっきりとは聞いていない。
しかし、お袋の言葉の中に九条と言う名前は何度も出てきた。
多分そいつが俺の親父なんだろうとずっと思って生きてきた。

そんなある日、俺のアパートに一人の白髪混じりの男性が訪ねてきた。

「はじめまして、私は九条家の執事平野と申します、九条家当主九条権蔵様が誄様と是非お話しされたいと申しておりまして、ご迷惑を承知の上で九条家に御足労願いたいのですが、ご都合は如何でしょうか」

「九条?」

お袋が頻繁に口にしていた名前だ。

「話とはどんなご用件でしょうか」

「申し訳ございません、私の口からは申し上げられません、お迎えに行くようにと申し使って参りました」

「わかりました、これから伺います、支度をするので少しお待ち頂けますか?」

「かしこまりました」

俺は父親かどうか確かめたかった。

そしてお袋が苦労したことを伝えたかった。

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