一生のお願い
先生のそんな様子から痛いほどそう伝わってきた。


「ま、つまり何が言いたいかと言うとね!」

「!」

「想いが強くなる前に、忘れなさい」


ぽん、と先生に肩を叩かれた。

て、忘れなさいって…。


「松戸さんわかりやすいもん、お兄さんのこと好きなんでしょ?」

「な…」

「今ならまだ引き返せる、このままだと松戸さんも俺みたいになっちゃうよ」

「…ありがとうございます」


わかってるそんなの。

忘れられたらどんなにいいか…。

それができたらとっくにやってるわ。


その後すぐシフトの時間になってしまい、先生とはそこでわかれた。

そして、文化祭は大成功のもと幕を下ろした。


別々に暮らさない限り、忘れるなんて無理よ。




「ただいま」


文化祭を終え、その後の後夜祭、そして打ち上げを終えてもう夜の八時。

家に入ると、カレーのいい匂いがした。

まあ、夕飯はもう頂いてきたから今夜は食べないのだけど。


「ちょっと楓!」

「お母さん…」


リビングに入ると鬼の血相の母とそんな母を宥める父。

あ、帰り遅くなるって連絡してなかった。

リビングには異様な空気が流れていた。
< 36 / 60 >

この作品をシェア

pagetop