お見合い夫婦!?の新婚事情~極上社長はかりそめ妻を離したくない~
つい前のめりになる。まさかまた誘ってもらえるとは思いもしない。
あまりにも食いつきすぎたと気づき、そそくさと助手席の定位置に体を戻す。辛い物が食べたいという気持ちのほかに、なにかべつの感情がひっそりと動いた気がした。
「それはよかった」
くすりと笑って彼が続ける。
「おばあ様の手前、もう少し演技も続けた方がいいだろうしね」
「……あ、そう、ですよね」
果歩としたことが、一番肝心な問題を忘れていた。
(おばあちゃんのために誘ってくれたのに、私ってばなに浮かれてるの……!)
晴臣は果歩を誘いたいわけでも、一緒に辛い物を食べたいからでもなく、最初に約束した恋人のふりをする必要性に駆られているため言っただけ。他意はないと自分に言い聞かせる。
彼の前で油断をしたら危険。心を強く持たないと自分を見失いそうだ。
「身勝手なお願いをして本当にすみません」
「それはもういいから。俺も一緒に火鍋を食べられて楽しかったし」