お見合い夫婦!?の新婚事情~極上社長はかりそめ妻を離したくない~
罪なことは言わないでほしい。極上の男に楽しいなんて言われたら、油断するなと誓ったばかりの心は単純に舞い上がってしまう。
再び車は走りだし、果歩のアパートの前に停車した。
「そうだ。連絡先も交換しておこうか」
「いいんですか?」
そこまでしてもらってもいいのかと心配になる。
「いいも悪いも、おばあ様にもう一度くらい会っておいた方がいいと思うよ」
すべては夏江の命のため。そう自分に言い聞かせ、それ以上の展開はないと諫める。
晴臣と電話番号やメッセージアプリのIDを教え合い、車を降り立った。晴臣まで運転席からわざわざ降りたため申し訳ないような、それでいてくすぐったいような気持ちになる。
そうまでして見送られた経験は、果歩の人生で一度もない。レディーファーストとはべつの世界で生きてきた気すらする。
「今日は本当にありがとうございました」
〝楽しかったです〟と言おうと思ったが、実感がこもり過ぎる気がして言葉をぐっと止めた。