お見合い夫婦!?の新婚事情~極上社長はかりそめ妻を離したくない~
不確実な関係に身を焦がして
「いくつか見させてほしい部屋があるんですけど」
荒原不動産の窓口にやって来たのは、先日果歩が対応して間取り図を何件か持ち帰った若い女性だった。以前来たときに果歩が手渡した間取りのうち三枚をカウンターに並べる。
「では、担当の者がご案内いたしますね」
出かけずに残っていた営業に仕事を引き継いでふたりを見送った後、無意識にため息が漏れた。
期せずして晴臣とキスをした昨夜。ほとんど眠れずに朝を迎えた果歩は、彼と顔を合わせる勇気がなくて薄暗いうちにマンションを出た。
二十四時間営業のファストフード店で時間をつぶしながら考えるのは、当然のごとくこれからのこと。本物の恋人でもないのにキスをするなんて、果歩にしたら前代未聞。二十八年間生きてきて初めてのため、その後の対処方法がわからない。
晴臣にとっては挨拶だろうから何事もなかったように振る舞うのが一番なのかもしれないが、それは果歩にとって高等技術。きっと目は合わせられないし、笑顔は引きつるだろう。挙動が不審になる予感しかしない。
晴臣が起きるよりずっと早くにマンションを出るほかに手立てがなかった。