お見合い夫婦!?の新婚事情~極上社長はかりそめ妻を離したくない~

晴臣はポツリと呟き眉根を寄せた。
いつもなら集中して一心不乱に打ち込める制作が、今ひとつのめり込めない。

その原因はただひとつ。昨夜の果歩とのキスだ。
文代にお見合いを持ちかけられたときは、辞退一択だった。強引にセッティングされた場にとりあえず行き、相手に直接断って終わりにしようと考えていた。

そこで、先方から予想もつかないまさかのお願い。了承したのは人助けのようなものだった。
切実な顔をして祖母の命がかかっていると言われれば、放っておくこともできない。恋人のふりをして彼女の祖母に会って終わり。それだけのつもりだった。

ところが、なぜか果歩といるとリラックスできて心地がいい。これまでの女性たちと違って、彼女にはやってもらってあたり前といった感覚がまったくない。年の離れた双子の妹がいると言っていたから、世話を焼くのが習慣になっているのもあるだろう。

幼い頃から自由気ままな兄の一慶がそばにいたせいか、晴臣は自分がしっかりしなくてはと、いつも気持ちを律して生きてきた。一慶は好き嫌いを素直に表すが、晴臣は誰にでも分け隔てなく接し、周りが望む頼れる男としてやってきた。

それを窮屈に感じたことはないが、どこかで甘えたい部分があったのかもしれない。
これきりにしたくない。そう思うより早く口が動き、恋人のふりを続ける提案をした。
彼女の祖母をダシにしたのだ。
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