Sweet Strawberry Trap 御曹司副社長の甘い計略
 でも……
 彼の妻になることは、すなわち、芹澤家の人間になること。
 はたして、つけ刃《やいば》で行儀作法を身に着けたような人間に務まるのだろうか。
 好きという感情だけで押し通せるのだろうか。

 わたしは彼の胸に身体を預けたまま「宗太さん」と声をかけた。
「うん?」
 見上げると、いつになく彼の頬が紅潮していた。

 それが彼の真心を表しているようで、わたしの心も歓びにふるえる。

 だけど……
「こんなに幸せな瞬間、生まれてはじめて味わいました。わたしもずっとあなたのそばにいたい。でも……」
「でも?」

「わたしなんかに務まるとは思えないです。あなたのパートナー」
「エリカ」

 彼はわたしの両肩をつかみ、顔を覗き込んできた。
「ぼくと結婚するのが嫌だってこと?」
「嫌だなんて……ある訳ないです、もちろん。でも、わたしが芹澤家の人間になるのは無理じゃないかと……」

「今のままのきみでいいんだよ。いろいろ言ってくる者がいるかもしれないけど、ぼくはこれから、そうした芹澤の人間が持っている特権意識とも戦っていきたいんだ」

 彼の手に力が入る。
「約束する。ぜったい辛い目に合わせたりしない。だからぼくの味方になってくれないか。きみが必要なんだ。ずっとそばにいてほしいんだ」

 そして、いっそう強い力で抱きしめられた。
 まるで、想いのたけのすべてをわたしに注ぎ込もうとするかのように。
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