Sweet Strawberry Trap 御曹司副社長の甘い計略
 喜一郎氏が入院されているのは、ベリーヒルズ病院の最上階の個室。病室というよりホテルのスイーツルームのような豪華さだ。

 すでに、叔父さん夫妻、宗太さんのお母さん、それにはじめてお会いするグレーの背広を着た中年の男性が集まっていた。

 もう、こうなったら大財閥に君臨する会長だろうが、言いたいことははっきり言ってやる。

 わたしは敵地に乗り込むような気構えでベッドに近づいた。

「会長、エリカを連れてきたよ」
 宗太さんがベッドに坐る喜一郎氏に声をかけた。

「おお、来たね。その節はお世話かけたね」

 けれど、拍子抜けするほど芹澤会長の口調は優しかった。

「ここにいる息子が失礼な態度を取ったそうで、すまなかったね」
「いえ、そんな……」

 恐縮して頭を下げるわたしを見て、喜一郎氏は鷹揚にうなずき、そして言った。

「どうか、孫をよろしくお願いしますよ」
「えっ?」
 孫をよろしくって……?
「ぼくたちの結婚を許してくれたんだよ、会長が」
 満面の笑みをたたえて、宗太さんが言った。

「よかったわね。壱子ちゃん」
 宗太さんのお母さんも笑顔でわたしを祝福してくれた。

「でも、なんで……」
 喜一郎氏は戸惑うわたしを見て、満足そうに息をついた。

「おお、その驚いた顔、蝶吉そっくりで懐かしい限りだ。どうやら約束守ってくれたようだな、宗太」
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