Sweet Strawberry Trap 御曹司副社長の甘い計略
 えっ? まだ、声かけてないけど。
「これ……」
 芹澤さんはシートの隙間から手を伸ばし、わたしの目の前で、ぱっと開いて見せた。

 手のひらの上には、白地にイチゴ模様のついたキャンディがひとつ。

「食べます?」
「わっ、懐かしい。子どものころ、大好きでよく食べましたよ、これ。まだ売ってたんですね」

「湊が買ってきてくれて。この間、このキャンディの話をしてたから」

「み、湊さんが……ですか。へぇー……」

  あらま。
 この強面の人が、このキャンディを買っているところを想像すると、悪いけど、ちょっと笑える。

「湊は一番信頼のおける部下なんです。ぼくが不在のあいだ、何か相談があれば彼に連絡してください」

 そう言って、湊さんの名刺を渡してくれた。
 わたしはよろしくお願いしますと言ってから、包みを開けた。

 イチゴミルク味のキャンディ。
 子どものころ、大好きだったな、これ。
 
 おいしいし、何よりこの包み紙が可愛くて、ほかのものとは違う特別感があった。

 遊びに行くときはいつも持っていって、友だちに配った。

 そのせいか、そのころのわたしのあだ名は〝イチゴ〟。

 壱子っておばあちゃんみたいで嫌いだったから、イチゴのほうが気にいっていたっけ。
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