Sweet Strawberry Trap 御曹司副社長の甘い計略
***

「ただいま戻りました」  
 事務所のドアを開けると、向かいの窓から、強烈な西日が差しこんでいた。

 3時間ほど前とは、まったく違う場所のように思える。

 まるで穴に落ちて不思議の国を訪れたアリスの気分。

 あの子たちが見ていた雑誌が置きっぱなしになっていた。
 ページをめくり、芹澤さんの写真を眺める。

 さっきまでベリーヒルズビレッジにいて、この人と会っていたなんて、どう考えても、現実とは思えない。
 
 事務所の人は、酒井さんを除いて、みんな出払っていた。

 電話で話す彼の声だけが、事務所中に響きわたっている。
「はい、来週の週末には必ず払います。なんとか目途が立ちそうなんですよ」

 はい?
 これって、もしかして借金の催促の電話?

 酒井さんが電話を切ったあと、少し間をおいてから呼びかけた。

「酒井さん……」
「ああ、帰ってきてたのか」
 酒井さんは椅子に座ったまま、大きく伸びをした。

 わたしはストレートに尋ねた。
「そんなに苦しいんですか。事務所の経営」
 一瞬の逡巡のあと、酒井さんはボソボソ話しはじめた。
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