Sweet Strawberry Trap 御曹司副社長の甘い計略
「聞こえてたよね、今の。そうなんだよ。佐伯が問題起こした後、事務所にもケチがついちゃってさ。大手はいざ知らず、うちみたいな弱小には痛手が大きくて。頼みの栗田も最近、勢いがないしね」

 佐伯とはうちの看板俳優で、昨年の暮れ、覚せい剤濫用の疑いで逮捕されていた。

 負債ってどのぐらいあるんだろう。今回のわたしのギャラで多少は穴埋めできるんだろうか。

「それより、どうだった?」
 気弱な笑みを浮かべながら、酒井さんはわたしに尋ねた。

「もう、びっくりしましたよ。着いたところがあのベリーヒルズビレッジでしたから。車に乗ったときは、やばいとこに連れてかれるんじゃないかと本気で心配しましたけど」

「あれ、言ってなかったっけ?」
「ないですよ、一言も」
「書類に書いてあったと思ったけど」
  あのギャラの金額に驚いて、そんなとこまで見てなかったし。

「で、なんて返事したの?」
 隠そうにも隠しきれない期待に満ちた目。
 さっき、目処《めど》とか言ってたのは、たぶんこの仕事のことだろう。

 うわ、めっちゃ断りづらい状況じゃない、これって。

「依頼主の芹澤さんがこれから上海に出張に行かれるので、2日後に返事することになりました」

「大変そう?」
 酒井さんはどこまで話を聞いているんだろう。

 芹澤さんの話では、くわしい話はしていないようだったけれど。
 わたしは正面から彼の目を見据えた。
< 27 / 153 >

この作品をシェア

pagetop