Sweet Strawberry Trap 御曹司副社長の甘い計略
 ここ2カ月ほど、事務所からの仕事の依頼は途絶えていた。
 そろそろ、タレント業も潮時ってことかな。
 この業界の新陳代謝は激しいから、これから仕事は減っていく一方だろう。

 ただ転職するにしても、この年齢で未経験で雇ってくれるところがあるかどうか。そう考えると、なかなか一歩が踏み出せなかった。

 そんな中、久しぶりに事務所から連絡を受け、来所したのだった。

「お、来栖ちゃん。来たね」
「はい、留守電聞いたので」
 所長の酒井さんが席を立って出迎えてくれた。

 彼は現在、55歳。相撲の親方と間違えられるほど大柄で、最近、お腹周りがますますやばいことになってる。
 人の良さがにじみ出ている柔和な笑顔がトレードマーク。

 学生時代に現役女子大生を出演させるテレビ番組をプロデュースして大当たりをとり、その勢いのままこの事務所を立ち上げたそうだ。

 今は全盛期と比べれば、だいぶ落ちぶれているけれど、売れっ子を何人か抱えていて、なんとか事務所を維持している。

 わたしのような〝その他大勢タレント〟のマネージメントは彼が一手に引き受けていた。

「ちょっと変わった案件なんだけどさ、まあ、こっち来てよ」酒井さんは所長席の隣の椅子を指さした。

「えーと、どこやったっけ」そう言いながら、デスクの上を占領している書類をあれこれ探って、ようやく一通の茶封筒を見つけだした。

「あっ、これだ、これだ。あのさ。ある人からの依頼で、これから2カ月ほど、住み込みで働いてほしいんだけど」

 住み込み? なんじゃ、そりゃ? ここは家政婦事務所じゃなかったはずだけど。
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