Sweet Strawberry Trap 御曹司副社長の甘い計略
「とりあえず、さ。おれの顔を立てると思って、話だけ訊きに行ってくれない? 連絡すれば、迎えに来てくれる手筈になってるから」

「今、スグですか? それもひとりで?」

「おれ、これから外せない用事があるんだよ。でも先方は急いでるみたいでさ。どうしても今日中に来てほしいんだと」

 うーん。どうしよう。なにしろ無茶苦茶な話だし。
 でも、この7年、事務所から理不尽な仕事を押し付けられたことはないしなぁ。
 嫌だと言えば、絶対、無理強いはされない。

 この業界の人としては珍しく、酒井さんはあくどい人間じゃない。
 いや、どっちかと言えばお人好しすぎるぐらいだ。

 本当にまずい仕事だったらはじめから受けないだろう。

 わたしは酒井さんの目を見据えた。
「断れないんですよね。違います?」

 酒井さんはぽんと膝を打った。
「さすが来栖ちゃん。話が早いね。昔からいろいろ世話になってる人を通しての依頼なのよ。それに最近、うちの経営、かなりきつくてさ。引き受けてくれたら、ほんと、助かるんだよね」

 酒井さんは手を合わせて拝むフリをする。

 もー、しゃーないなー。

 こういうとき、頼まれると断れない性格がひょっこり顔を出してしまう。
 母親の話では、わたしの曾祖母は気風《きっぷ》と気前がいい、と評判の芸者さんだったそうだ。

 わたしはその血を完全に受け継ぎ、それが災いして、いままでだいぶ損をしてきた気がする。

 でも、性分だからなぁ。
 今さら、治しようもない。

「わっかりました。面接、行きますよ。でも、もし、マジでやばそうな話だったら、断ってもいいですよね」

「ああ、そのときはすぐ電話して」
 酒井さんはほっとした様子で、依頼主に連絡するために胸ポケットからスマホを取りだした。
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