Sweet Strawberry Trap 御曹司副社長の甘い計略
 車が発進してから、おそるおそる声をかけた。

「あの……あなたがご依頼主ですか?」

 男は前を向いたまま、バックミラーごしにわたしに視線を向けた。
「いえ、違います。わたしは依頼した人物の秘書をしている者で、湊と申します」

「なんでわたしなんかに話が来たのかしら?」
「さあ。私はただお迎えに上がるようにと命じられただけですので」
 そっけなくそう言うと、もう話は終わりというように目線をそらした。

 もうー、やっぱ怖いよー。
 今からでも、ドア開けて飛び降りようかな。

 でも、こんな往来の激しい場所じゃ、後続車に轢かれるのがオチだろう。

 わたし、なんか反社の人に恨まれるようなこと、したっけ?
 酔っぱらってるとき、啖呵《たんか》きっちゃったとか。

 うーん、とくに覚えはないけど……
 もし、危ない目に合いそうになったら、噛みつくなり、引っ掻くなりして、逃げ出すしかないかな……

 わたしの心配をよそに、車は目的地に向かって着実に進んでいき、やがて高層ビルらしき建物の駐車場に滑り込んでいった。
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