Sweet Strawberry Trap 御曹司副社長の甘い計略
 それから30分ほど飛行を続け、ヘリポートに戻った。

 先に降りた芹澤さんはわたしの座席のほうに回り、「ほら」と言って、手を貸してくれた。
「あっ、すみません」
 その手を握り、彼の体温がわたしの手に伝わってきた瞬間。 

 今日の空のように、雲ひとつなく澄みわたっていたわたしの心が、にわかにやるせなさで覆われていった。

 最高の休日は、これでおしまいなんだ……

 芹澤さんとふたりきりで過ごした数時間。
 幸せすぎた。
 予想を遥かに超えていた。

 この時間がずっとずっと続いてくれたら……

 偽装なんかじゃなくて、彼と本物の恋人同士ならどんなに……

 ないものねだりはいけない、と気持ちを押しとどめようとすればするほど、胸を締めつける切なさにとらわれた。

「大丈夫? 気分が悪くなった?」
 急に表情を変えたわたしを気づかって、芹澤さんが訊く。
 まずい。顔に出てしまったみたい。

「いいえ、大丈夫です。本当に最高の気分でした。ずっと飛んでいたかったぐらい」

 宗太さんと一緒に、という言葉はぐっと飲み込んだ。
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