Sweet Strawberry Trap 御曹司副社長の甘い計略
「喜んでもらえて良かったよ。だって……」
 芹澤さんがわたしに話しかけたとき、ちょうど、ヘリが1基飛び立った。

 辺りは大きなプロペラ音に包まれ、彼の言葉をかき消した。

「えっ、今、なんかおっしゃいました?」
 芹澤さんは一瞬、口を開きかけたけれど、すぐに首をふった。

「いや、なんでもないよ。さて、そろそろ帰ろうか」
 彼は大きく伸びをして、それから駐車場に向かって歩きだした。
 
 帰路についたけれど、好天の日曜日、道路は大渋滞。
 ベリーヒルズに帰りつくまでに、いつもの倍以上の時間がかかりそうだった。

「ヘリの免許を取るって大変なんじゃないですか?」
「いや、自家用だからそれほどでもないよ。アメリカ留学中に取ったしね」

 維持費も大変ですねって言おうとしたけれど、これは愚問だろう。

「花火の季節もいいよ。下から見るのとまた違って」
「上空から見る花火なんて想像もつかないです」
「そのときは、またフライトに誘うよ」
「本当ですか?」
「ああ。もちろん」
 芹澤さんはわたしを見て頷いた。

 顔が曇っていかないように、わたしは必死で耐えた。

 彼を嘘つきだとは思ったわけではない。
 でも、下手に期待させないで欲しかった。

「すみません。寝てもいいですか? 少し疲れてしまって」
「ああ、構わないよ。ついたら起こすから」

 落ち込む気持ちを悟られないように、ビレッジに帰り着くまで、わたしは寝たふりを続けた。
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