Sweet Strawberry Trap 御曹司副社長の甘い計略
 自室に戻り、ベッドに横になってはみたけれど、まったく寝つくことができず、とうとう窓の外は白んできた。

 鳥がしきりに囀《さえず》っている。

 時計を見ると、5時10分前。
 わたしはベッドから抜け出した。
 朝の澄んだ空気を吸えば、少しは頭が冷えるだろう。

 4月も終盤とはいえ、早朝の空気は冷えびえとしていた。
 わたしは、広場の枝垂れ桜を目指した。
 もうとっくに花は終わっているけれど。

 朝靄《もや》のなかに立つ桜の大木の下で、深呼吸する。

 新鮮な酸素を吸いこんで、心がすこしスッとした。

 部屋に戻ったら、彼に言わなければ。

 もう一緒に住むのは限界だと。
 おかげで、最近は教わったことが身についてきた実感がある。

 残りの期間、自宅からレッスンに通うことにしても、問題ないと思う。

 好きになりすぎてしまった。
 もう、なんでもないふりなんて、できない。

 ベンチに坐って、そんなことを考えているうちに、あたりはすっかり朝の光に満ちていた。

 端末を時計表示にすると、6時10分。
 わ、もう1時間も経っていたんだ。

 そろそろ戻って、朝食の準備をしないと。
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