Sweet Strawberry Trap 御曹司副社長の甘い計略
 レジデンスに戻ろうとしたときだった。
 うめくような音が聞こえてきたのは。

 鳥の鳴き声? それとも野犬?

 周囲を見回すと、木陰で死角になっていたベンチに人の姿があった。

 遠目で見ても、明らかに様子がおかしい。
 何かの発作を起こしているみたいだ。

 わたしは急いでそのベンチに駆け寄った。

「どうされたんですか?」
 そう尋ねると、息も絶え絶えな様子で「これを……開けてくださらんか」と言った。

 海老茶色の和服を着た老人だった。
 手に銀色のアルミに包まれた薬を持っている。

「ちょっと待っていてくださいね」
 わたしは包みを開けて、老人に手渡した。
 まだ苦しそうだ。

 今度は自動販売機まで走り、ミネラルウォーターを買った。

 こういうとき、ほんと、この端末は便利。
 財布は持っていなかったけれど、時計型端末はビレッジ内の自動販売機でも使えるので、本当に助かる。

 急いで戻って、キャップを開けてペットボトルを渡した。

 まだ息が少し荒かったけれど、数分経つと、老人の土気色の顔に血色が戻っていった。
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