Sweet Strawberry Trap 御曹司副社長の甘い計略
「お父様ったら、だめだと申しましたでしょう。ひとりでお出かけになったら」
 心配気な様子で、女性がひとり駆け寄ってきた。

 よかった。ご家族が来られたのなら安心だ。

「早くに目が覚めてしまってな。お前を起こしたら悪いと思ったんだよ。年寄りは眠りが浅いから」

「もう、そんなこと、仰いますけど……」
 一通り、文句を言ってから、女性はわたしの存在に気づいた。
「あなたは?」

「通りすがりの方だ。水を買ってきてくださった」

「まあ、ありがとうございます。あの、良ければお名前をお聞かせ願えませんか?」

 女性にそう乞われたが、ふと芹澤さんの言葉を思い出した。

 ――このレジデンスの上層階はほとんど芹澤の人間だよ。

 もし、ここで名乗って、彼に迷惑をかけることになっても困る。

「ぜひお礼をさせていただきたいわ」
「そんな、困ります。わたしはただ、お水をお持ちしただけですから」
「いいえ、お願い。こちらの気が済まないから」
「そんなことより、まだ冷えますし、お父様を早くお連れになったほうがいいのではないですか」
「あ、そうね」

 女性が老人の様子に気を取られているうちに、わたしはそっとその場を立ち去った。
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