転生侍女はモブらしく暮らしたい〜なのにお嬢様のハッピーエンドは私に託されているようです（汗）

（ジェラルドエンディングの可能性を失ったばかりだというのに、ダグラスまで望み薄……？）

この世界はゲームではない。

頑張っても思い通りに進まぬ現実に、エマは心の中でため息をついていた。


＊ ＊　＊

ジェラルドは久しぶりに生家に帰ってきたところだ。

王都から馬で三日もかかる遠方の地。

中規模の街の中心に立つ赤煉瓦の壁の重厚な建物が、ロランス侯爵邸だ。

父の代から務めている執事が「お帰りなさいませ」と笑顔で迎えてくれたが、館の主人、長兄のロバートは違う。

奥二重の冷ややかな瞳を持つロバートは、リビングで紅茶を飲んでいた。

入ってきたジェラルドを見て、嫌そうに目を細める。

「ロバート兄さん、久しぶり。先に送った手紙を読んでくれた？」

「フン。謎を解いて父の宝の在りかを掴んだというあの手紙か。戯言だと思ったが、本当に帰ってくるとはな。それで、どこにあるんだ？」

「一応、信じてくれたんだ。リチャード兄さんが着いたら話すよ。父さんの形見だ。三人一緒でないと不公平になる」

最初は兄たちと一緒に宝探しをする気はなかった。