転生侍女はモブらしく暮らしたい〜なのにお嬢様のハッピーエンドは私に託されているようです（汗）

「交流に不慣れなレミリア様が心配で、つい覗いてしまいました。本当は従者の控室にいなければならないのに……すみません」

「ああ、レミリア嬢も招待客のおひとりでしたか。主人のために心を尽くす。エマ殿は侍女の鏡ですね。私も王家に忠誠を誓っている身ですので、お気持ちはよくわかります」

黒曜石の如き瞳が、弓なりに細められた。

どうやら主人のためという言い訳が彼の騎士精神と合致して、許してもらえたらしい。

ダグラスは騎士服の胸元からシンプルなハンカチを取り出すと、「失礼」と言ってエマの頬に当てた。

「あ、あの……」

「バラの棘でうっすら血がしみています」

手当てをされて初めて傷に気づいたエマが驚けば、プッと吹き出された。

「痛みは感じたでしょう。女性なら真っ先に自分の顔を心配しそうなものなのに、あなたはレミリア嬢のほうが大切なようですね」

「もちろんです。レミリア様のためなら、なんでもします。私は侍女ですので」

「ご立派です」

至近距離で好意的に微笑まれると、エマの鼓動が五割増しで速度を上げる。

すると、手当てをされているのが急に恥ずかしくなった。