転生侍女はモブらしく暮らしたい〜なのにお嬢様のハッピーエンドは私に託されているようです(汗)
「それは父とも考えたのですが、我が領地が海に面していないのがデメリットです。他家の港を使えば、多額の使用料を取られてしまい採算が合わない」

「確か、最寄りの港はシリッドでしたね。ゴメツキー伯爵の領地だ。私の姉がゴメツキー伯爵の弟君に嫁いでいます。姉を通して交渉してみましょうか」

その申し出にブライアンは驚き、返事に詰まっている。

すぐに喜ばないのは、代わりになにを差し出せと言われるのかと、危ぶんでいるからだろう。

それを察したバルニエ伯爵が、ワイングラスを揺すり、苦笑する。

「ご安心を。ブライアン殿が私の招待を受けてくださったお礼です。こうして話をできるのが嬉しいのですよ。寂しい独り暮らしの私が求めるのは、客人の来訪です」

その言葉に、エマはナイフとフォークを止めた。

バルニエ伯爵に聞いてもいいものかと、迷っていることがある。

この晩餐室の壁紙と絨毯はバラ模様で、階段の手すりやドアの取っ手、調度品やテーブルクロス、カトラリーの持ち手までバラの装飾が施されている。

内装や小物が女性向きなしつらえなのは、五年前に亡くなったという妻の趣味ではないだろうか。

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