平凡な私の獣騎士団もふもふライフ2
考えただけで、心臓をぎゅっと掴まれるような緊張に見舞われた。社交界のことなんて知らないし、陛下とその周りを偽るとか、さすがにまずい。

すると、つい直前までの不機嫌さはどこへいったのか。こちらの気も知らず、ジェドが冷静に思案する顔で顎を撫でさする。

「確かに未来の婚約者としたほうが、説得力もあるし――いい案だな」

不意に、そんな言葉が彼の口からもれる。これは使えるな、と既に決めたような表情だ。リズは「ひぇぇ」と震え上がった。

「だ、団長様、一時とはいえ、さすがに王様をあざむく行為は危険ではないでしょうかっ。も、も、もしバレて、何かあったらまずいと思いますし」

「まずは、この一時をしのげばいいんだろ」

慌てて意見したものの、なぜか自信の窺えるいつもの不敵な笑みを向けられて、ジェドに一蹴されてしまう。

「一時をしのぐって、相手はこの国の王なんですよ? そんな簡単な話ではな――」

「俺とて、しばらく預けていた幼獣のことが気になっている」

「え? あ、そうだったんですか……?」

唐突にそんな話を振られて、素直なリズは聞き入る。

「この前、密猟団が集まった件があったばかりだしな。未来の婚約者の顔を見せに行く、というプライベートな王都滞在であれば、調査も警戒されずに進められるだろうと、そう考えたまでだ」

なるほど、どうやら幼獣の心配もあってのことだったらしい。密猟団に幼獣が二頭誘拐されてしまった一件は、リズの中にもまだ鮮明に残っていた。

王宮にいる幼獣が、同じ目に遭ってしまうようなことがあってはだめだ。

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