今、君に想いを伝えて、ここで君を抱きしめる

第2節

 マユはその包みを開いた。

 突如として、灰色の森が彼女の目の前に現れ、彼女を森のなかにいざなう。

 その森のなかにある池のほとりに、懐かしいひとが立っている。

 もう会えない、もう触れることもできないひとだ。

 「あなたは、だれ?」と彼女は問いかけた。

 そのひとは優しく彼女に微笑んだ。

 彼女はそのひとに心から伝えたいことがあると思った。

 私、本当はずっとあなたに謝りたかった。

 あなたは世界中でたったひとりの、私にとって、とてもとても大切なひと。

 本当は、あなたを憎んだりしたくはなかった。

 本当は、ずっとあなたに会いたかった。

 でも、もう遅い。遅すぎる。

 でも、今、ここで、私は、あなたに謝りたい。

 ごめんなさい、ママ

 本当にごめんなさい

 そして、今までありがとう、ママ

 彼女は泣きくずれた。

 彼女が流した涙が、灰色の池にそそがれていく。

 その時、彼女の名前を呼ぶ声がして、彼女は顔を上げた。

 彼女のママが小さな女の子と手をつないで立っている。

 その女の子は透き通ったきれいな栗色の瞳をしている。とてもとても愛おしい、懐かしい瞳の色だ。

 また彼女は尋ねた。

 「あなたは、だれ?」

 その女の子はイタリア語で告げた。

 「マンマ、今、そっちに行くから待っててね!」

 マユは灰色の森の絵を丁寧にシーツにくるんで、元の位置に戻した。そして、ベッドに戻ると、眠っているブルーノの背中から手を回して、全身で彼の大きな身体を抱きしめた。ブルーノは寝返りを打ってマユの方を向き、目を閉じたままでマユをその腕の中に抱きしめた。マユは声をたてずに涙を流した。マユは悲しいのではない。心から安心したのだ。マユはブルーノの温かい腕の中で目を閉じた。

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