今、君に想いを伝えて、ここで君を抱きしめる
思わず安寿は航志朗の琥珀色の瞳を見た。航志朗も安寿の黒い瞳を見つめ返した。ふたりはしばらく見つめ合った。
航志朗は安寿の背中を支えながらゆっくりとベッドの上に横たえて、安寿に覆いかぶさって唇を重ねた。甘くとろけるような感覚が大きな波になって安寿を呑み込んだ。思わず安寿は色のついた吐息をもらしてしまった。
航志朗はさらに深く唇を重ねてくる。安寿は我慢できなくなって、浴衣の袖ごと航志朗にしがみついた。航志朗は少しずつ安寿の唇を開いていき、その生温かい舌をゆっくりと中に入れて安寿の舌にからめてきた。
目をきつく閉じていた安寿は思わず目を見開いて航志朗の顔を見た。航志朗は陶酔した表情で目を閉じている。にわかに安寿の身体が小刻みに震え始めた。それに気づいた航志朗は重ねた唇を離して、安寿を腕の中に抱きしめた。そして、安寿の背中をさすりながら苦笑いして、申しわけなさそうに航志朗は言った。
「安寿、ごめん。ちょっと刺激が強すぎたか」
安寿は航志朗の腕の中で深いため息をついた。頬を紅潮させた安寿は潤んだ瞳で航志朗の琥珀色の瞳を見上げた。ふたりはまた見つめ合った。その安寿の瞳に拒絶の色はなかった。むしろ切実に安寿から求められているように感じた航志朗は、自分を抑えきれずにまた安寿に強く唇を重ねた。安寿は航志朗の身体に思いきり抱きついて、それを全身で受け入れた。それから、ふたりは激しくキスし合った。浴衣の襟と裾が乱れるほどに。
その時、安寿は天空から風が吹いて来て、霧を吹き飛ばす音を聞いたような気がした。航志朗と唇を重ねながら安寿は窓の外をうかがった。窓の外に漆黒の暗闇が見えた。霧が晴れたのだ。
小さな震える声で安寿は言った。
「航志朗さん、……霧が晴れました」
航志朗も窓の外を見て言った。
「本当だ」
安寿と航志朗は手をつないでバルコニーに出た。外気はひんやりとしていて、ふたりは身震いした。すぐに航志朗がベッドから毛布を取って来てふたりは一緒にくるまった。安寿と航志朗は夜空を見上げた。さえぎるものはひとつもない、広く、広く、どこまでも広がる夜空だ。
目が慣れてくると、ふたりは真上にあまたの星たちが輝いていることに気づいた。安寿は無邪気に歓声をあげて星空に両手を伸ばした。安寿の両方の手のひらに星たちのまたたきが降りそそいだ。その安寿の姿を航志朗は心から愛おしそうに見つめた。安寿と航志朗は互いの瞳を見つめ合って微笑んだ。
航志朗は安寿の肩を抱き寄せて言った。
「安寿、そろそろベッドに戻ろうか?」
安寿は顔を真っ赤にして身体を硬直させた。
「ん? そういう意味じゃなくて」
思わず航志朗も赤くなった。
あわてて安寿は訂正した。
「ベッドで眠ろうか、ですよね?」
航志朗は安寿の言葉にうなずいたが、どうしようもなく身体の奥からわき上がってくる衝動にひどく苦しめられた。
(俺は彼女を抱きたい、今すぐに。でも、まだそれは許されない)
安寿と航志朗は暖かい部屋の中に戻り、ひとつのベッドの上に横たわった。一緒に入った毛布の中で航志朗はため息をもらしながら、安寿をとめどなく抱きしめた。安寿も航志朗の身体につたなく手を回した。安寿は航志朗の温もりに安堵感を覚えたが、航志朗の匂いは安寿の身体に得体の知れない感覚を呼び覚ました。急に恐れを感じた安寿はそれを見ないようにきつく目を閉じた。航志朗は安寿に寄り添い、その額にそっとキスして目を閉じた。
その夜、安寿はよく眠れなかった。うとうととはしたが、何回も起きてしまった。夫とはいえ、いまだに男性と抱き合ってベッドの中にいることが信じられない。それに認めたくはないが、身体の奥が熱を帯びてどうしようもない。思わず安寿はぐっすりと眠っている航志朗の身体にしがみついた。
あさってには、また航志朗と別れなければならない。安寿は航志朗に今すぐ起きて、自分にもっと触れてほしいと思ってしまった。闇夜の中で安寿はそんな自分を持て余し、大きな罪悪感を持った。
航志朗は安寿の背中を支えながらゆっくりとベッドの上に横たえて、安寿に覆いかぶさって唇を重ねた。甘くとろけるような感覚が大きな波になって安寿を呑み込んだ。思わず安寿は色のついた吐息をもらしてしまった。
航志朗はさらに深く唇を重ねてくる。安寿は我慢できなくなって、浴衣の袖ごと航志朗にしがみついた。航志朗は少しずつ安寿の唇を開いていき、その生温かい舌をゆっくりと中に入れて安寿の舌にからめてきた。
目をきつく閉じていた安寿は思わず目を見開いて航志朗の顔を見た。航志朗は陶酔した表情で目を閉じている。にわかに安寿の身体が小刻みに震え始めた。それに気づいた航志朗は重ねた唇を離して、安寿を腕の中に抱きしめた。そして、安寿の背中をさすりながら苦笑いして、申しわけなさそうに航志朗は言った。
「安寿、ごめん。ちょっと刺激が強すぎたか」
安寿は航志朗の腕の中で深いため息をついた。頬を紅潮させた安寿は潤んだ瞳で航志朗の琥珀色の瞳を見上げた。ふたりはまた見つめ合った。その安寿の瞳に拒絶の色はなかった。むしろ切実に安寿から求められているように感じた航志朗は、自分を抑えきれずにまた安寿に強く唇を重ねた。安寿は航志朗の身体に思いきり抱きついて、それを全身で受け入れた。それから、ふたりは激しくキスし合った。浴衣の襟と裾が乱れるほどに。
その時、安寿は天空から風が吹いて来て、霧を吹き飛ばす音を聞いたような気がした。航志朗と唇を重ねながら安寿は窓の外をうかがった。窓の外に漆黒の暗闇が見えた。霧が晴れたのだ。
小さな震える声で安寿は言った。
「航志朗さん、……霧が晴れました」
航志朗も窓の外を見て言った。
「本当だ」
安寿と航志朗は手をつないでバルコニーに出た。外気はひんやりとしていて、ふたりは身震いした。すぐに航志朗がベッドから毛布を取って来てふたりは一緒にくるまった。安寿と航志朗は夜空を見上げた。さえぎるものはひとつもない、広く、広く、どこまでも広がる夜空だ。
目が慣れてくると、ふたりは真上にあまたの星たちが輝いていることに気づいた。安寿は無邪気に歓声をあげて星空に両手を伸ばした。安寿の両方の手のひらに星たちのまたたきが降りそそいだ。その安寿の姿を航志朗は心から愛おしそうに見つめた。安寿と航志朗は互いの瞳を見つめ合って微笑んだ。
航志朗は安寿の肩を抱き寄せて言った。
「安寿、そろそろベッドに戻ろうか?」
安寿は顔を真っ赤にして身体を硬直させた。
「ん? そういう意味じゃなくて」
思わず航志朗も赤くなった。
あわてて安寿は訂正した。
「ベッドで眠ろうか、ですよね?」
航志朗は安寿の言葉にうなずいたが、どうしようもなく身体の奥からわき上がってくる衝動にひどく苦しめられた。
(俺は彼女を抱きたい、今すぐに。でも、まだそれは許されない)
安寿と航志朗は暖かい部屋の中に戻り、ひとつのベッドの上に横たわった。一緒に入った毛布の中で航志朗はため息をもらしながら、安寿をとめどなく抱きしめた。安寿も航志朗の身体につたなく手を回した。安寿は航志朗の温もりに安堵感を覚えたが、航志朗の匂いは安寿の身体に得体の知れない感覚を呼び覚ました。急に恐れを感じた安寿はそれを見ないようにきつく目を閉じた。航志朗は安寿に寄り添い、その額にそっとキスして目を閉じた。
その夜、安寿はよく眠れなかった。うとうととはしたが、何回も起きてしまった。夫とはいえ、いまだに男性と抱き合ってベッドの中にいることが信じられない。それに認めたくはないが、身体の奥が熱を帯びてどうしようもない。思わず安寿はぐっすりと眠っている航志朗の身体にしがみついた。
あさってには、また航志朗と別れなければならない。安寿は航志朗に今すぐ起きて、自分にもっと触れてほしいと思ってしまった。闇夜の中で安寿はそんな自分を持て余し、大きな罪悪感を持った。