今、君に想いを伝えて、ここで君を抱きしめる
病院のベッドに横たわる恵の隣に座った渡辺が微笑みながら恵の汗ばんだ髪をなでた。
渡辺は四十八時間以上かかった恵の初産に立ち会った。渡辺は疲れきっているが、まだ赤くてしわくちゃの小さな息子を真剣なまなざしで見つめた。
(一生をかけて僕が全身全霊で守らなければならないひとが、また一人増えたんだな)
恵は生まれたばかりの赤ちゃんを胸に抱えながら渡辺を愛おしそうに見つめた。
「優ちゃん、ありがとう。私たち、やっとパパとママになったね」
渡辺は微笑んで恵を見つめ返した。
「礼を言うのは、僕のほうだよ。恵、本当にありがとう。僕は君を心から愛している。今までも、今も、これからもずっと……」
ふたりは静かに抱き合った。
クルルの美術館が無事オープンしてから一週間後、航志朗がアイスランドを去る日がやって来た。十か月間に渡って関わった美術館と、クルルをはじめエルヴァルの家族たちとの別れの日だ。
前日の夜、エルヴァル家では長女のアンナが率先してささやかなお別れパーティーを開いてくれた。そして、今日、ケプラヴィーク空港に全員が見送りに来てくれた。アンナとサーラとフレイヤ姉妹は大泣きして抱き合っている。アンナの足にしがみついたクラウスが母親につられて泣いている。エルヴァルは航志朗を抱きしめた。
「コーシ。君には心から感謝している。美術館の仕事を完璧にやりとげてくれただけじゃない。君は僕たちにとって無くてはならない存在になったんだよ。覚えていてほしい。離れていても、君は僕たちファミリーの一員だよ」
航志朗はエルヴァルに力強く言った。
「エルヴァルさん、私も心から感謝しています。この十か月間、本当に素晴らしい日々を送ることができました。皆さんのおかげです。ありがとうございました」
エルヴァルの娘たちはまた大声をあげて泣いた。そして、一人ひとり順番に航志朗とハグして、航志朗の両頬にキスしていった。
最後に航志朗とクルルが見つめ合った。
「クルル、ありがとう。君と過ごした十か月、本当に楽しかったよ。まあ、すぐにまた会えそうだな。タクミくんと……」
クルルがあわてて航志朗の口を手でふさいだ。いつものようににらまれるかと航志朗は思ったが、クルルは頬を赤らめてうつむいた。安寿がよくするように。
突然、クルルは背伸びをして航志朗の頬にキスした。航志朗は目を見開いて驚いた。
「コウシロウ、ありがとう。いつかアンジュと一緒に僕の美術館に来てほしい。約束だ」
航志朗は目を細めてクルルの頭に手を置いて言った。
「もちろん約束するよ、ボス。アンジュに君の美術館とこの国の素晴らしいランドスケープを見てもらいたいからな」
クルルは航志朗を一瞬にらんだが、すぐに吹き出して笑い出した。それは、まぶしいくらいの美しい笑顔だった。
航志朗はアイスランドを後にしてイギリスへ飛び立った。大学院の博士課程を修了するために。
渡辺は四十八時間以上かかった恵の初産に立ち会った。渡辺は疲れきっているが、まだ赤くてしわくちゃの小さな息子を真剣なまなざしで見つめた。
(一生をかけて僕が全身全霊で守らなければならないひとが、また一人増えたんだな)
恵は生まれたばかりの赤ちゃんを胸に抱えながら渡辺を愛おしそうに見つめた。
「優ちゃん、ありがとう。私たち、やっとパパとママになったね」
渡辺は微笑んで恵を見つめ返した。
「礼を言うのは、僕のほうだよ。恵、本当にありがとう。僕は君を心から愛している。今までも、今も、これからもずっと……」
ふたりは静かに抱き合った。
クルルの美術館が無事オープンしてから一週間後、航志朗がアイスランドを去る日がやって来た。十か月間に渡って関わった美術館と、クルルをはじめエルヴァルの家族たちとの別れの日だ。
前日の夜、エルヴァル家では長女のアンナが率先してささやかなお別れパーティーを開いてくれた。そして、今日、ケプラヴィーク空港に全員が見送りに来てくれた。アンナとサーラとフレイヤ姉妹は大泣きして抱き合っている。アンナの足にしがみついたクラウスが母親につられて泣いている。エルヴァルは航志朗を抱きしめた。
「コーシ。君には心から感謝している。美術館の仕事を完璧にやりとげてくれただけじゃない。君は僕たちにとって無くてはならない存在になったんだよ。覚えていてほしい。離れていても、君は僕たちファミリーの一員だよ」
航志朗はエルヴァルに力強く言った。
「エルヴァルさん、私も心から感謝しています。この十か月間、本当に素晴らしい日々を送ることができました。皆さんのおかげです。ありがとうございました」
エルヴァルの娘たちはまた大声をあげて泣いた。そして、一人ひとり順番に航志朗とハグして、航志朗の両頬にキスしていった。
最後に航志朗とクルルが見つめ合った。
「クルル、ありがとう。君と過ごした十か月、本当に楽しかったよ。まあ、すぐにまた会えそうだな。タクミくんと……」
クルルがあわてて航志朗の口を手でふさいだ。いつものようににらまれるかと航志朗は思ったが、クルルは頬を赤らめてうつむいた。安寿がよくするように。
突然、クルルは背伸びをして航志朗の頬にキスした。航志朗は目を見開いて驚いた。
「コウシロウ、ありがとう。いつかアンジュと一緒に僕の美術館に来てほしい。約束だ」
航志朗は目を細めてクルルの頭に手を置いて言った。
「もちろん約束するよ、ボス。アンジュに君の美術館とこの国の素晴らしいランドスケープを見てもらいたいからな」
クルルは航志朗を一瞬にらんだが、すぐに吹き出して笑い出した。それは、まぶしいくらいの美しい笑顔だった。
航志朗はアイスランドを後にしてイギリスへ飛び立った。大学院の博士課程を修了するために。