今、君に想いを伝えて、ここで君を抱きしめる
先に風呂に入った航志朗は、離れの部屋で布団の上に横になって安寿が風呂から戻ってくるのを待っていた。もう午前零時を回っているが、安寿はなかなか戻って来なかった。
(また、いつもの長風呂か?)
ため息をついた航志朗はノートパソコンを開いて仕事をし始めた。
風呂上がりの安寿は恵たちの寝室に寄って、敬仁の無邪気な寝顔を眺めていた。安寿は小声で恵に言った。
「敬仁くん、優仁さんに似ているね」
恵が微笑みながら言った。
「うん。よく言われる。でも、私は赤ちゃんの頃の安寿にも似ているなって思うわよ」
「本当に?」
安寿の顔を見て恵はうなずいた。安寿は敬仁の隣に寝そべった。小さな小さな赤ちゃんだけど、圧倒的な存在感を持ってここにいる。敬仁は小さな口を小刻みに動かした。
「恵ちゃん、赤ちゃんってとっても可愛いね」
山になっている洗濯物をたたみながら肩をすくませて、恵がおどけた口調で言った。
「安寿もすぐにママになっちゃったりして……」
安寿は静かなままだ。
「安寿?」
恵は安寿の顔をのぞき込んだ。安寿は目を閉じて眠りに落ちていた。結婚しているとはとうてい思えないあどけない寝顔だ。恵は苦笑いして、安寿に自分のタオルケットを掛けながら思った。
(あーあ。もう、安寿ったら、航志朗さんを放っておいたまま眠っちゃって! 彼、布団の中で待っているんじゃないの)
風呂から出て来た渡辺がタオルで髪を拭きながら寝室に入って来て、並んで眠っている安寿と敬仁を見てささやくように言った。
「本当の姉弟みたいだね、恵ちゃん」
「本当にそうね……」
静かな喜びに満たされながら恵は微笑んだ。
しばらくしてから安寿は微かな物音に目を覚ました。枕元に置かれた小さなライトをつけただけの薄暗い部屋で、恵が安寿に背を向けて敬仁に授乳をしている。ちゅっちゅっと一生懸命に吸う音が聞こえてくる。きつく胸がしめつけられる音だ。
安寿の視線に気づいた恵が振り向いて言った。
「ごめんね、安寿。起こしちゃったわね」
起き上がった安寿は首を振って時計を見た。午前二時だ。恵は眠たげにあくびをしてから小声で言った。
「敬仁、夜も二時間おきに泣いて起きて、おっぱい飲むのよ」
安寿も小声で言った。
「恵ちゃん、何か手伝うことない?」
恵は微笑んだだけだった。
その時、やっと安寿は航志朗のことを思い出した。
「私、離れの部屋に戻るね」
苦笑して恵はうなずいた。離れに向かう途中で、リビングルームのソファの上に渡辺が足を投げ出して横になっているのが見えた。安寿は申しわけなく思った。
(私がふたりの寝室で眠っちゃったから、優仁さん、ここで寝ているんだ……)
きっと航志朗はすでに眠っているはずだ。安寿は静かに離れの部屋の襖を開けた。
「航志朗さん……」
電気を落とした暗い部屋で布団の上でうつぶせになりながら、航志朗がブルーライトを浴びてノートパソコンを打っていた。航志朗は安寿に気づくと微笑みかけた。
「安寿、やっと戻って来たな。待ってたよ」
「ごめんなさい。恵ちゃんたちの寝室で、いつのまにか眠ってしまって」
「いいよ。一緒に眠ろう、安寿」
胸の鼓動が早くなっていくのを感じながら、安寿は航志朗の隣の布団に入った。二組の布団は微妙に間が空いている。航志朗は安寿ごと布団を引っぱってから、安寿の身体を引き寄せて抱きしめた。航志朗の腕の中で安寿が赤くなって身を硬くしていると、航志朗は安らかに寝息を立て始めた。
安寿は笑みをこぼした。ゆったりとした航志朗の呼吸の揺らぎを心地よく感じる。
(今、本当に、彼と一緒にいるんだ)
安寿は航志朗の安心する匂いと温もりに包まれながら再び目を閉じた。
(また、いつもの長風呂か?)
ため息をついた航志朗はノートパソコンを開いて仕事をし始めた。
風呂上がりの安寿は恵たちの寝室に寄って、敬仁の無邪気な寝顔を眺めていた。安寿は小声で恵に言った。
「敬仁くん、優仁さんに似ているね」
恵が微笑みながら言った。
「うん。よく言われる。でも、私は赤ちゃんの頃の安寿にも似ているなって思うわよ」
「本当に?」
安寿の顔を見て恵はうなずいた。安寿は敬仁の隣に寝そべった。小さな小さな赤ちゃんだけど、圧倒的な存在感を持ってここにいる。敬仁は小さな口を小刻みに動かした。
「恵ちゃん、赤ちゃんってとっても可愛いね」
山になっている洗濯物をたたみながら肩をすくませて、恵がおどけた口調で言った。
「安寿もすぐにママになっちゃったりして……」
安寿は静かなままだ。
「安寿?」
恵は安寿の顔をのぞき込んだ。安寿は目を閉じて眠りに落ちていた。結婚しているとはとうてい思えないあどけない寝顔だ。恵は苦笑いして、安寿に自分のタオルケットを掛けながら思った。
(あーあ。もう、安寿ったら、航志朗さんを放っておいたまま眠っちゃって! 彼、布団の中で待っているんじゃないの)
風呂から出て来た渡辺がタオルで髪を拭きながら寝室に入って来て、並んで眠っている安寿と敬仁を見てささやくように言った。
「本当の姉弟みたいだね、恵ちゃん」
「本当にそうね……」
静かな喜びに満たされながら恵は微笑んだ。
しばらくしてから安寿は微かな物音に目を覚ました。枕元に置かれた小さなライトをつけただけの薄暗い部屋で、恵が安寿に背を向けて敬仁に授乳をしている。ちゅっちゅっと一生懸命に吸う音が聞こえてくる。きつく胸がしめつけられる音だ。
安寿の視線に気づいた恵が振り向いて言った。
「ごめんね、安寿。起こしちゃったわね」
起き上がった安寿は首を振って時計を見た。午前二時だ。恵は眠たげにあくびをしてから小声で言った。
「敬仁、夜も二時間おきに泣いて起きて、おっぱい飲むのよ」
安寿も小声で言った。
「恵ちゃん、何か手伝うことない?」
恵は微笑んだだけだった。
その時、やっと安寿は航志朗のことを思い出した。
「私、離れの部屋に戻るね」
苦笑して恵はうなずいた。離れに向かう途中で、リビングルームのソファの上に渡辺が足を投げ出して横になっているのが見えた。安寿は申しわけなく思った。
(私がふたりの寝室で眠っちゃったから、優仁さん、ここで寝ているんだ……)
きっと航志朗はすでに眠っているはずだ。安寿は静かに離れの部屋の襖を開けた。
「航志朗さん……」
電気を落とした暗い部屋で布団の上でうつぶせになりながら、航志朗がブルーライトを浴びてノートパソコンを打っていた。航志朗は安寿に気づくと微笑みかけた。
「安寿、やっと戻って来たな。待ってたよ」
「ごめんなさい。恵ちゃんたちの寝室で、いつのまにか眠ってしまって」
「いいよ。一緒に眠ろう、安寿」
胸の鼓動が早くなっていくのを感じながら、安寿は航志朗の隣の布団に入った。二組の布団は微妙に間が空いている。航志朗は安寿ごと布団を引っぱってから、安寿の身体を引き寄せて抱きしめた。航志朗の腕の中で安寿が赤くなって身を硬くしていると、航志朗は安らかに寝息を立て始めた。
安寿は笑みをこぼした。ゆったりとした航志朗の呼吸の揺らぎを心地よく感じる。
(今、本当に、彼と一緒にいるんだ)
安寿は航志朗の安心する匂いと温もりに包まれながら再び目を閉じた。