今、君に想いを伝えて、ここで君を抱きしめる
午後三時に合わせて、恵に頼まれた安寿と航志朗は、おしるこに入れる白玉だんごをつくった。初めてつくると言った航志朗だったが、見目よく形が整った白玉だんごを次々に丸めていった。安寿がつくった白玉だんごは見るからに不揃いだ。
「安寿って、けっこう大ざっぱなところがあるよな」と航志朗がなにげなく言った。安寿は白玉だんごを丸めながら仏頂面をして、上目遣いで航志朗をにらんだ。両肩を揺らして航志朗は愉しそうに笑った。
渡辺と希世子が帰って来た。土師と黒いランドセルを背負った男の子も一緒だ。恵は走って玄関に行き、きれいに拭いたサッカーボールを男の子に手渡した。男の子は目を大きく見開いてから、ぽろぽろと涙をこぼした。恵は「勇生くん、本当によかったね。あのお兄さんとお姉ちゃんが見つけてくれたのよ」と言って、男の子の頭を優しくなでた。安寿と航志朗は顔を見合わせて微笑んだ。
その後、皆で白玉だんご入りの温かいおしるこを食べた。身に染みるちょうどよい甘さでとてもおいしかった。
三回目のおかわりを食べ終わると、航志朗は勇生を誘って外に出て、サッカーボールを使って一緒に遊び始めた。
窓の外で楽しそうに歓声をあげてサッカーボールを蹴る勇生を見て、渡辺が心底驚いた表情を浮かべて言った。
「へえ、意外だな。航志朗くんて、子ども好きなんだね」
安寿も驚いて窓の外を見た。航志朗と勇生は周りが暗くなってサッカーボールが見えなくなるまで遊んでいた。
勇生の両親が渡辺の家の玄関に迎えに来た。勇生の母親はベビーキャリアを身に着けて赤ちゃんを抱いていた。二人とも渡辺の農業法人のスタッフだ。帰り際に安寿は勇生が水彩絵具セットを持っていることに気づいて、遠慮がちに勇生にお願いした。
「勇生くん。もしよかったらでいいんだけど、その絵具セットを私に貸してもらえないかな?」
明るく元気な声で勇生は答えた。
「いいよ! 図工の時間は毎週火曜日なんだ。来週の月曜日までに返してもらえばいいから、お姉ちゃん、好きに使って!」
続けて勇生は航志朗に向かって大声で誘った。
「おじさん! また明日もサッカーしようよ!」
苦笑いしてうなずきながら、航志朗はひそかに思った。
(なんで、安寿は「お姉ちゃん」なのに、俺は「おじさん」なんだよ……)
離れの部屋に戻ってから、安寿は航志朗に右腕の包帯を巻き直してもらった。傷口は浅く出血はとっくに止まっている。まったくもって大したけがではないが、航志朗は丁寧に包帯を巻いた。巻き終わると航志朗は「おまじないだ」と言って、また両手の手のひらで安寿の右腕を包んだ。安寿は微笑みながら航志朗の大きな手を見つめた。
まだ午後八時すぎだ。安寿は座卓の上にスケッチブックを開いて、勇生に借りた絵具で彩色を始めた。小学生用の十二色入りの水彩絵具セットだ。勇生の好きな色なのだろうか、赤が一番少なくなっている。
楽しそうに色を塗る安寿の姿を笑みを浮かべて眺めてから、航志朗はノートパソコンを開いて仕事を始めた。しばらくしてから、航志朗は身体じゅうの関節に違和感を覚えた。首を左右に動かして腕を回しながら航志朗は思った。
(久しぶりによく身体を動かしたからな。最近、運動不足だったし……)
「安寿って、けっこう大ざっぱなところがあるよな」と航志朗がなにげなく言った。安寿は白玉だんごを丸めながら仏頂面をして、上目遣いで航志朗をにらんだ。両肩を揺らして航志朗は愉しそうに笑った。
渡辺と希世子が帰って来た。土師と黒いランドセルを背負った男の子も一緒だ。恵は走って玄関に行き、きれいに拭いたサッカーボールを男の子に手渡した。男の子は目を大きく見開いてから、ぽろぽろと涙をこぼした。恵は「勇生くん、本当によかったね。あのお兄さんとお姉ちゃんが見つけてくれたのよ」と言って、男の子の頭を優しくなでた。安寿と航志朗は顔を見合わせて微笑んだ。
その後、皆で白玉だんご入りの温かいおしるこを食べた。身に染みるちょうどよい甘さでとてもおいしかった。
三回目のおかわりを食べ終わると、航志朗は勇生を誘って外に出て、サッカーボールを使って一緒に遊び始めた。
窓の外で楽しそうに歓声をあげてサッカーボールを蹴る勇生を見て、渡辺が心底驚いた表情を浮かべて言った。
「へえ、意外だな。航志朗くんて、子ども好きなんだね」
安寿も驚いて窓の外を見た。航志朗と勇生は周りが暗くなってサッカーボールが見えなくなるまで遊んでいた。
勇生の両親が渡辺の家の玄関に迎えに来た。勇生の母親はベビーキャリアを身に着けて赤ちゃんを抱いていた。二人とも渡辺の農業法人のスタッフだ。帰り際に安寿は勇生が水彩絵具セットを持っていることに気づいて、遠慮がちに勇生にお願いした。
「勇生くん。もしよかったらでいいんだけど、その絵具セットを私に貸してもらえないかな?」
明るく元気な声で勇生は答えた。
「いいよ! 図工の時間は毎週火曜日なんだ。来週の月曜日までに返してもらえばいいから、お姉ちゃん、好きに使って!」
続けて勇生は航志朗に向かって大声で誘った。
「おじさん! また明日もサッカーしようよ!」
苦笑いしてうなずきながら、航志朗はひそかに思った。
(なんで、安寿は「お姉ちゃん」なのに、俺は「おじさん」なんだよ……)
離れの部屋に戻ってから、安寿は航志朗に右腕の包帯を巻き直してもらった。傷口は浅く出血はとっくに止まっている。まったくもって大したけがではないが、航志朗は丁寧に包帯を巻いた。巻き終わると航志朗は「おまじないだ」と言って、また両手の手のひらで安寿の右腕を包んだ。安寿は微笑みながら航志朗の大きな手を見つめた。
まだ午後八時すぎだ。安寿は座卓の上にスケッチブックを開いて、勇生に借りた絵具で彩色を始めた。小学生用の十二色入りの水彩絵具セットだ。勇生の好きな色なのだろうか、赤が一番少なくなっている。
楽しそうに色を塗る安寿の姿を笑みを浮かべて眺めてから、航志朗はノートパソコンを開いて仕事を始めた。しばらくしてから、航志朗は身体じゅうの関節に違和感を覚えた。首を左右に動かして腕を回しながら航志朗は思った。
(久しぶりによく身体を動かしたからな。最近、運動不足だったし……)